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「…悪い。みっともないとこ見せちまったな」
「うん、それな」
ようやく泣き止んだオッサンは、どこか柔らかな表情で俺を見た。
「…でも、さ」
「あ?」
おい、まだ何かあるのかよ。
再びソワソワし始めたヤツに、俺は半ばウンザリした目を向ける。
「幸太の話をまとめると、やっぱり洸が嘘つく必要はどこにもないじゃないか。…ってことはだ。やっぱり俺、洸に嫌われるんじゃないのか?」
あーあ、可哀想に。このオッサン、洸に振られてよっぽど自信失くしてんだな。第一印象、ナルシストの自信家っぽいヤツだったから、尚更なのかも知んねえ。
"ああ、そうだよ、その通りだぁ!"
なんて言ってやったら、スッキリするだろうけど…
思いながら、またもや俺は、その逆のことを言った。
男って辛い。
「あんたのこと嫌いだったら、ちょっと嘘ついたくらいで、あんなに毎日めそめそ泣かないだろ?
ちょうどホラ、そこに置いてあるのとそっくりのコーヒーカップ抱えてさ。
あれだホラ、ライバル意識っていうか、仲良い友達にほど、"絶対に負けたくない"って思うだろ?
きっと、対抗意識ってやつだ。あんたと比べて、自分が見劣りするのがヤだったんだ。
洸は負けず嫌いだから」
オッサンがはたと立ち止まった。静かな目で、俺のことをじっと見つめる。
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