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終章 -翔-
ガタン、ガタン…
カーブに差し掛かった新幹線が、2回ほど小さく揺れた。
昨日出来たばかりの小さな友人は、俺の隣の窓側の席に不貞腐れた顔で座っている。
どうやらまだ納得がいかないらしく、俺の視線に気付くと彼は、太い眉をギュッとしかめた。
「…そりゃあ、翔には感謝してるよ?足りなかった交通費、まるまる全額出してくれたんだから。
でもさ、別に、俺が帰るのについてこなくったっていいじゃないか。
昨日の美人のオネーサンも困ってたし、何より金と時間の無駄づかいだろ」
「いやー、責任ある大人としては、子どもひとりであんな遠くまで帰すわけにはいかないじゃないか。お前の身に何かあったら、ご家族の皆さんに申し訳が立たない。
…いいんだよ、今日はどうせ、ろくな予定も入ってなかったし。社長の特権ってやつ?」
「…白々しい。
あのさ。
俺、来る時あんたの会社全然知らなかったけど、一人で来たんだぜ?
帰る方がよっぽど楽なんすけど」
「…………。
ま、細かいことはいいじゃないか。お、車内販売が来たぞ。さ、幸太、頼め頼め」
「ちぇっ、そうやってすぐ誤魔化すんだから。…どうせ俺を口実にして、洸に会いたいだけなんだろ?
洸が迎えに来るっていう、俺との会話、盗み聞きしたんだろ」
「まあ、そういう側面もなくはないが」
「チッ、それしかねえって。
…おい、昨日の約束、覚えてるよな?」
「ああ、覚えてる」
「いいか?フラゲは絶対になしだからな」
「ああ、約束だ」
「絶対だぞ」
「絶対だ」
「…怪しいなあ」
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