542人が本棚に入れています
本棚に追加
そうだ、死のう。
ザザーー…、ザッパーーーンッ。
崖の上から見下ろす波は、岩に打ち寄せて雄々しく鳴り、20メートル上まで、白い飛沫を上げている。
いっそこの中に飛び込んだら、私は楽になるのかも__
なんてこと、本気で思っているワケではないけれど、狂おしく荒ぶる高波を、崖の上から何時間も見つめていれば、ふとそんな気にもなってくる。
私、こと東洸は、今日、今年初めての有給休暇をもらった。
どうせ仕事なんかないのに、上には散々渋られながら。
ここは、家から車で30分ほどの海岸線にある、国道沿いの展望台。
平日の昼間、ましてや台風一過の時化の中で、人なんていないだろう、とたかを括って来たんだけれど、その予測は見事に外れた。
夏休みだということもあり、むしろ高潮を狙った浜辺にサーファーが10人はいて、サマースポーツを楽しんでいる。
どうせ近くの大学の学生達だろう。
平日の昼間から、気楽なものだ。
ああ、
あの海の底は、一体どんな風になっているのかしら。
あの深い色の藍。
外はこんなに眩しくて、じわじわ焼けるように暑いのに、あそこはきっと冷たくて暗く静謐で、居心地良いに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!