海の底 -洸-

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そこまで考え、私は首を横に振った。 いやいや冷静になれ、自分。 そんな美しい悲劇が似合うのは、白いワンピースを着た病弱の、儚げなヒロインであって、私のような、頑丈だけが取り柄の、間抜けでそそっかしい女じゃない。 あ、でも。 それなら逆に「ドジな女が強風に煽られて落っこちたんだな」くらいに皆思ってもらえるかも知れない。 …………。 いや、やっぱりダメ。 そういうことすると、警察や後片付けをしてくださる清掃業者さん、その他諸々の色んな方々が大迷惑するんだって。 おまけにその請求は、残された遺族にいくらしいし… 第一怖い。 止めた止めた、さあ帰ろう。 私は海に背を向けると、背中に背負ったバッグから車のキーを取り出そうと、肩ひもを外しかけた。
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