第三話「聞く人、見る人、感じる人」

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第三話「聞く人、見る人、感じる人」

太郎左衛門門「ら゛ん゛ら゛ら゛ん゛ら゛ら゛~゛ん゛♪゛♪゛」 本日も僕、朝からオペラ声で歌いながら出勤し、絶好調。 こうして、歌いながら出勤する習慣を始めてから、早5年。 巷では「突き抜け太郎」と呼ばれている。 僕はこのあだ名がひどく気に入ってるので、自分のことを「ぬっきー」と呼んでいる。 うん、実に甘美な響きだ。 会社を目の前にして、あるポスターを見つけた。 太郎「ん?近代科学の祭典?」 何やら、科学の力を体験できるイベントを近くのビルでやっているらしい。 幸いにも僕は文系なので、科学なんぞというものに趣向も造詣もない。 ほら、あの、電気でビリってくるペンみたいなやつ。あれが嫌いだから科学も嫌いだ。 だが、この「お手製プラネタリウムづくり体験」というのがすごく気になる。 なんで気になるのかわからないけど、すごくワクワクする。 僕はただそれだけの興味に惹かれて行ってみることにした。 太郎「おとな一人で」 受付嬢「おとな一名様ですね~。832円になります。」 太郎「はい」 受付嬢「はい、832円ちょうどお預かりいたします。こちらレシートになります。」 太郎「あ、いえ、」 受付嬢「あ、こちらですね、下にクーポンがついてまして、お近くのコンビニに持って行っていただけると、目玉焼きを無料でもらえるんですよ。」 太郎「あ、別に、目玉焼 受付嬢「あと卵焼きもついてくるので、ぜひ!」 太郎「あっ、あっ」 僕は泣く泣くレシートを受け取ってしまった。 これではレシートアレルギーのお財布がかわいそうだ。 帰りにとっととコンビニで換卵して帰ろう。 しかし、中は思いのほか広くて、どうやらこのワンフロア全体で展示しているらしい。 ほほ~と知ったような顔をしていると、目の前に三人の少年少女がいた。 こんな平日の朝に何してんだこいつらは。 柿下栗生「いや~、今日休みでよかったな~」 油蝉虫子「ほんとね~。うちら試験頑張ったしね。」 感度矢羽男「ふっ…ふぅん///」 この三人はよっぽど仲がいいのか、どの展示も仲良く交代しながら、礼節のある客として確立していた。 栗生「おぉ~、この錯覚面白いな。絵が動いて見える。」 虫子「ねーねー矢羽男!この磁石のやつやってみてよ!」 矢羽男「はぁっ///あぁあぅぅぅぅんっ///」 栗生「えー!お前磁力も感じんのかよ!」 虫子「矢羽男は力に敏感だからね~」 矢羽男「はぁっ・・・はぁっ・・・」 やばお君疲れてないか? 彼をパワースポットなどには連れて行かないことだなと強く願った。 栗生「あったあった、これがそうか」 虫子「プラネタリウム作るって、何をするんだろ?」 矢羽男「球体に穴をあけて、自由に星座を作れるんだよ」 栗生「へぇー!!」 虫子「面白いじゃん!」 ほぉ、自由に星座が作れるのか。 やばお君の言葉に突き動かされ、僕もそのままプラネタリウムづくりに参加することにした。 係員さんの説明は、すごくわかりやすい。 目の前の少年少女が、きらきらと目を輝かせて話を聞いている。 僕も、学生時代はこんな先生に出会いたかったなあとか、思いながら。 係員「それでは、さっそく作っていこっか!」 三人「はい!!」 みんなは思い思いに紙にレイアウトをして、星座にした時のイメージをする。 虫子「見て見て!うさぎさん描いたの!かわいいでしょ!」 栗生「え!めっちゃうまいじゃん!」 矢羽男「虫子ちゃんは昔から絵が上手だね」 虫子「栗生も矢羽男も、かっこいいやつ描いてんじゃん~」 栗生「だろ?ティラノサウルスはやっぱかっけえよなぁ」 矢羽男「よくそこまで細かく描けるね(笑)俺は元素にしちゃった(笑)」 栗生「星座で元素作る奴なんてそうそういないぜ(笑)」 三人は、談笑しながら、自分の好きなものを書いていく。 係員「お兄さんはできました?」 太郎「あ、いや、まだ」 係員「自分の好きなものを、まずは堂々と大きく描いてみてください!そこから、星をちりばめて、形にしていけばいいですから」 太郎「あ、はい」 僕も三人のように、それとなく絵を描いて、係員さんに渡した。 係員「では、プラネタリウムへ移動しましょう!!」 三人・太郎「えっ?」 栗生「書くだけで終わりじゃないの?」 係員「ここからがお楽しみです!さぁ、こっちへ!」 僕らは、何が何だかわからないまま、プラネタリウムへ移動した。 係員「それでは、映しましょう!」 部屋は暗くなり、僕を含めた四人は、ポツンと暗闇の中に取り残された。 すると、見覚えのある形が、上空のスクリーンに浮かんだ。 栗生「あ!あれ、虫子が描いたうさぎじゃん!!」 虫子「ほんとだ!!横の二つは栗生と矢羽男の星座だ!!」 矢羽男「うわぁ・・・・・」 虫子「なんだか、夢を見てるみたいね」 矢羽男「そうだね。懐かしいなあ」 栗生「俺らが小学生の頃、こうして夢を語り合ったなあ。虫子は動物のお医者さん、矢羽男は科学者」 虫子「栗生は、歴史探検家でしょ?」 矢羽男「俺たち、なーんも変わってないな(笑)」 栗生「ほんと、何も変わってないな(笑)」 虫子「夢、叶うといいね」 栗生「叶えるさ、きっと」 僕の星座も、彼らの星座の隣にポツンと輝いていた。 ミシンの星座。 ほんとは、洋服屋さんになりたかった過去を思って描いた。 なんで僕は今、こんなつまらない日々を続けているのだろう。 いつ、洋服屋さんになりたいという夢をあきらめたのだろう。 なんで、見たくもないパソコンを開いて、聞きたくもない愚痴を聞いて、ずっとずっと嫌な気持ちのままなんだ・・・? 「ぎがめっこしようぜ!!!」 ふと、思い出すこの言葉。 君はどこにいるんだ? 僕はどこへ行った? プラネタリウムの中で、泳ぐ人間などは、 見失った過去を、探し始める。
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