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プロローグ
まるでムカデの背のようにぬらりと輝く黒いまなこが、じっと私を見つめていた。その表情は驚いたような顔のまま、硬直している。実際、驚いていたのだろう。こうやって私と二人、穴の底にいることも、首の骨を折ってあっさり死んでしまうことも、数十秒前の彼には思いもよらなかったに違いない。
ぽっかりと開かれた瞼の筋肉は、徐々に弛緩してぼんやりとした表情に変わっていく。それでも塗り潰したような黒い瞳は、じっと私を見つめている。私は奥歯を細かく噛み鳴らし、彼の死体から遠ざかろうとした。尻餅をついた姿勢のまま、必死で足元を探り、後ずさる。しかしここは深い穴の中だ。逃げようにもどこにも逃げ場はない。
運良く誰かが見つけてくれない限り、私はこの死体と心中することになるのだ。それに気づいた私は、壁に縋り付き、声がかれるまで泣き叫んだ。しかし誰も答えてはくれないことを知って、私は蹲って顔を掻きむしる。
どうして、なんで私がこんな目に。指の隙間からどうしても見えてしまう死体の彼は、相変わらずこちらを黒々とした瞳で見つめていた。
目の前の、首が変な方向にねじ曲がってしまっている彼は、この学園で起きた一連の事件の首謀者だった。
結局私たちはきっと、黒魔女の手の平の上で踊らされていただけだったのだ。
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