1話

1/1
前へ
/38ページ
次へ

1話

「そこの可愛い子、俺とお茶しない?」 と明るい声が聞こえ反射的に見てしまった。 そんな自分に嫌気が差す。 あそこで女子をナンパしてるのは僕、星月璃(ほしづきあき)の彼氏の東雲涼(しののめりょう)。 彼は女遊びが激しく、浮気を繰り返している。 しかも顔が良いからナンパされた女の子はコロッと落ちてしまう。 あの人の彼女は僕なのに……と涼に声を掛けられる女子を妬ましいと感じた。 「おはよ……」 小さいながらもはっきりと聞こえる声に振り返る。 「あ、おはよ。身体の調子はどう?」 「まあまあ、かな?」 曖昧に微笑む彼は一ノ瀬零(いちのせれい)。僕の幼馴染で、涼の親友。 身体が弱く、時々倒れてしまう事もあるのでよく面倒を見たりする。 「零~、おはよ~!」 零を見かけた涼は零に抱きついた。 僕は無視……零には普通に話しかけるのに…… まあいつもの事だからもう気にしないけど。 「ん、おはよ」 零は抱き着いてきた親友をきちんと受けとめながら挨拶をする。 「零、行こう」 僕は零の手を引き一年の教室へ向かおうとした。 「……二人って教室違うよな?」 涼は怪訝な顔をして僕と零を交互に見る。 確かに僕と彼らは学年が違うから、涼が不審に思うのは仕方ない。 「渡したい物が有るの。悪い?」 睨みを利かせながら言えば、涼はなんでもない風に答えた。 「全然? ご自由にって感じ~?」 なにそれ、とイラっと頭にくる。 結局、嫉妬しているのは僕だけか…… 若干落ち込みながら教室前で零に薬を渡し、授業に臨む。 と言っても自習なんだけど。 すると、後ろでコソコソ話している女子の会話が聞こえてきた。 「それでね~、あたし涼先輩に抱かれたんだ!」 _____え? 彼女の言っていることが一瞬理解できなかった。 そしてすぐに理解する。 涼は女遊びが激しい。しかも毎日の様に女を取っ替え引っ替えしている。 抱いた女の数も相当いるんだろう。 胸の奥がズキズキと痛みながらも、僕はまた彼女達の話に耳を傾ける。 「マジ? あたしも抱かれたよ。その後沢山の女達とヤってるって言われたけど、あたし気にしない。相思相愛してればそれでいいから」 その言葉にドキッとして、背中に嫌な汗が流れる。 それは、絶対に僕では叶いそうもない事だったから。 「アンタ優しいね。でも、涼先輩本命居るらしいよ?」 「それ、デマでしょ! あたしここ最近ずっと相手してくれるし」 聞いているだけでイライラする内容だった。 僕だって、まだ涼としてないのに…… 彼は女遊びが激しい人けど優しい人でもある。だから来る者を拒んだりしない。 でもそれは良い事ばかりではなかった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加