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「さあ契約だ。真音よこせ」
『あーやだ。あーーーーーやだ』
「早くしろよ」
真音とは名を持たぬ存在が個々に持つ固有の音である。式神の契約を結ぶには、名か真音が絶対に必要なのだ。
源内は霊符を狛犬の足元に置き、人差し指と中指を揃えて伸ばし残りの指を閉じて刀印を結ぶと、静かに時を待った。
やがて狛犬の像の口からキーンという高音が発せられたかと思うと源内の刀印を結んだ手が素早く丸く円を描くように動き、円が閉じられるのと同時に円の中にふっと現れた真っ白な光が、たちまちぐんぐん大きく眩しくなって、大きな獣形に変化した。
シャラシャラシャラ……と煌びやかな音がした。
辺りの空気が清浄になりすうっと涼しい風が吹いた。
そうして、皆眩しそうに目を眇める中、白くたなびく輝く被毛を持つ神獣、狛犬が姿を現した。
全身が白金である。全長およそ3メートル、地上のどの動物にも例えることは難しいが、あえて近いところを探すのならば超超大型のペキニーズの頭頂にずんぐりとした角が一本ある、と言えばいいだろうか。
「わー……きれー……」
目の前の輝ける獣にうっとりと目を輝かせているのはもちろん遥希だ。頼はといえば、狛犬カズの発する神気に当てられて目を丸くし、完全に子狐姿に戻って尻もちをついてしまっている。
頼とて、源内と共に危険な妖と戦う時はカズと同じくらいの体長の美しい白狐になるのだが、いかんせん神獣の発する神気は妖狐にとっては甘く芳しく、うっとりしてしまうのである。
やがて源内が口の中で何事かブツブツと唱えながら刀印で滑らかな筆字を書いているような動きをして最後に横一文字に大きく切った。
「契約完了。よろしくな、カズ」
「はぁ~……ほんっと、気ぃ進まない……」
「人間界では人型になってくれな。大騒ぎになるから」
源内が言い終わるか言い終わらないかでカズの眩しい白に輝いていた獣形がヒュンと小さくなり、小柄で涼やかな顔立ちの男に変化した。当然どこにも面影が無いようにも思われたがよく見れば、澄んだ茶色い瞳は狛犬の時のままだった。
「わーー!わーー!すごい!カズくん、すっごい!」
満面の笑みで両手を差し出してくる遥希に「誰がカズくんだ」と言い返しつつ、遥希の余りの邪気のなさに握手に取られた片手はそのまま預けっぱなしにしたカズだった。
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