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「きれー!俺、神獣って初めて見た!めっちゃくちゃきれーだね!」
「そう?そりゃよかった」
素っ気なく返してみても遥希は一向に気にせず、にこにこしたままカズの手をぎゅっと握ってぶんぶん振り「なんでカズくんはカズくんって言うの?」と尋ねてくる。
「なんかさぁ、神様ってナントカのナントカヒコとかつきそうじゃん?カズって普通の名前だなあって思って」
「お前勘違いしてるみたいだけど、カズってのは俺の名前じゃないんだよね。もともと俺らには名前がないから。お前の師匠が、俺が天和生まれだからって一字取って和ってつけたの。勝手に、ね」
カズは相変わらず険を含んだ物言いをして会話を閉じよう閉じようとしていたが、遥希はにこにこと笑ったまま、
「でもね、カズってぴったりだと思う!顔がカズって感じだもん!」
とそれはそれは嬉しそうで、カズもなんとなく毒気を抜かれて、「どんな顔だよ」と返した声には最初ほどの刺々しさはなくなっていた。
一方土間に置いた霊符を拾い上げた源内は和室に上がろうとして、尻もちをついたまま二人のやりとりをぽかんと見守る子狐姿の頼を見て笑いながらため息をついた。
「頼くん。おいで」
ご主人の声に子狐ははっとして慌ててぴょんと立ち上がると、源内の広げた腕に飛び込んだ。大きなふさふさしっぽをくるんと体にくっつけて嬉しそうに源内の口元をペロペロと舐めて……
「すーぐ戻っちまうなあ……妖力だけなら母ちゃんを凌ぐのに、どうしてこんなに変化が苦手なんだか」
白く柔らかな被毛を撫でながら源内はぼそっと呟き、頼はそれを聞いてしょぼんとうなだれた。
苦手とはいえ普段の生活には全く支障がない頼の変化。それが実は……向かう所敵なしの源内の唯一の悩みともいうべき大きな問題なのだった。
「すまぬ……あんまりいい匂いで気が散ってしまった。覚……『とっくん』せねば……今夜!!」
「あー……うん」
頼が燃える瞳で大真面目に言うのに、源内は苦笑して白く小さい頭を撫でてやった。
頼くんは俺が好きだろ。俺も頼くんが好き。好き同士は世界で一番近くなれる。人間がこうやって近くなんの、見たことあんだろ……
そう言って寝床の頼に伸し掛かったのが数年前。「そうか……すきどうしは、こうやって……」と目をキラキラさせた頼との間に、どっこい思いもよらない障害があったのである。
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