主のお悩み

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「大丈夫だよ、頼ちゃん!なんか大変なことになるんなら、ししょーが許すわけないもん」 にっこにこと事の真理を突いて、おかわり~と席を立った遥希のその背を、頼のキラキラした目が追う。 「……だよな!!そう!!俺もそう思った!!」 半泣きの頼がぴんと背筋を伸ばして言うのに、源内は頭の後ろに手を組んで背もたれに寄りかかると「分かんねぇぞぉ?遥希」と含み笑いで天井を見た。 「俺はカズがどうしても欲しかった。生まれたての神獣を式にしたくて、ここ1か月日本中を探しまくったからな。そのカズがどうしても妖気が欲しいってんなら……頼くん。いいだろ?」 頼の目を見据えて……訊いていながら答えは分かっていると言わんばかりの確信の匂う声。 「……ウン」 俯いて……震える狐耳はこれ以上ないほど伏せられて…… 逆らうことなどできぬ……いや……できぬのではない、我は……覚の言うようにしたいのだ…… 妖気を喰われたら口が利けなくなるとはまことであろうか……それでは、我はもう覚と話が出来ぬのか…… すごい叫び声を上げて戻らぬとは……戻らぬとはどういうことであろう……覚と……もう会えぬのか…… 大きな瞳からぽたり、ぽたりと涙が落ちて、頼はそのままの顔で源内を見上げた。 「死にとうない……死ぬのは怖くはないが、覚ともう……会えぬであろ……」 すると突然ガタン、と音を立てて立ち上がった源内が頼の手首を掴んで引っ張った。 「遥希、わりぃけど俺と頼くんは今から特訓。飯、ラップかけといて」 「えっ…あ、う、うん……わかった……」 遥希は呆然としたまま頼を引き摺るように台所を出て行った源内を見送って、おかわりをついだお茶碗を持って自分の席にすとん、と座った。 「特訓って何?」 カズは相変わらずテレビに目を向けたまま遥希に訊ねた。遥希はお茶碗を両手で包むように持ったまま「知らないの」と呟くように返す。 「ししょーの部屋に閉じ籠もってなんかやってるけど、見たことないから。術がかけられてて入れないし、音も聞こえないし。 ねえ……それよりさ。妖気を食べられたら、頼ちゃん死んじゃうの?嘘だよね。そんなことししょーは絶対させないよ」 源内のやるようにこの人間をからかって遊んでやるのもいい、とカズは思ったが、頼を心配している黒々と澄んだ瞳を見ていたら、いつの間にか「死ぬわけないだろ」と素直に答えてしまっていた。
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