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古道具 桃屋
魔法と言えば西洋のイメージが強いものだが、日本に魔法がなかったわけではない。
陰陽師、呪術師の類は皆、西洋で言うところの魔法と同じ根源の力を用いた魔法使いなのである。
『ええ~?おまじないみたいなものでしょ?』
秘密にし過ぎるとかえって注目を集めるものだから、と、歴史上には程よく嘘と真実とを織り交ぜて登場する魔法は、同じくらいの認知度で現代まで脈々と受け継がれている。
「し~~しょ~~~~ お掃除終わりましたぁ~~~」
地元で緑高と親しまれる緑ヶ丘高校の制服を着た朝日奈遥希は、箒の柄を杖にして座り込み、ぜは~~~っという顔で師匠の源内覚を見上げた。
源内は畳の上に並べた座布団の上に寝そべり、着物が肌蹴るのも構わず片膝を立てて鼻をほじっている。
「ん~ ごくろーさん。じゃあ、メジロ屋であんまん買って来て」
「え~~~!なんでえ~~~!!」
「バツだからに決まってんだろ」
「だから~~~謝ってるじゃないですかぁ~~~!録画予約ミスってごめんなさいいいい」
「謝って済んだらケーサツはいらねえんだよ。ほら、とっとと行ってこい」
「オニ!メジロ屋って隣町じゃんっ電車使ってったら一時間以上かかるう!式を使ってよお!」
「それじゃお前のバツになんないだろ。早く行け」
どれだけ粘ろうと覆りそうにない命令に、遥希はしょぼんと肩を落として鞄を掴むと「行ってきます……」と昔の駄菓子屋風のガラスの引き戸をガタガタと開けて外に出て行った。
ここは『古道具 桃屋』という骨董からガラクタまでを扱う小さな店。およそ10畳ほどの狭い店内は商売をする気があるのか甚だ疑わしい暗さで、照明と来たら今時60ワットの裸電球一つである。
この店にぶらりと立ち寄るもの好きな客がいない訳ではない。そういう客は入るなりどこぞの隅には物の怪でも出そうな古道具たちの醸す雰囲気に圧倒される。
人の背丈を優に超える大きなボンボン時計。江戸時代に使われていたという和箪笥。頬がくすんだアンティークのビスクドールが座っているのは背もたれの棒が一本抜けた揺り椅子。
店には気の利いた音楽などは一切流れておらず、どこかで何かが喋っているような、客以外の誰かがいるような、多くの気配に満ちている。
その上……主人の源内と来たらいつも続き間の和室でごろりと横になって寝ている始末。貴重なもの好きの客さえ逃すのは常の事だった。
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