お年頃

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さて、それから過ぎることまた半月。 頼の発情期は雪が言っていた通りひと月ばかりで終わった。 源内は連日頼を抱いたが……全戦全勝というわけにはいかなかった。 「あれ、ししょー!首!どうしたの!?」 遥希は、源内の首に巻かれた包帯を見て驚き、近寄ってマジマジと眺めた。 「ちょっとな。仕事中にミスった」 「珍しい!!ししょーでもそんなこと、あるの??」 「そりゃそうだろ。人間だれでも失敗はある」 まさか頼に力で押された結果の噛み傷であるとは到底言えない。 頼は正気に戻った時、口の中の血の味に気づき、首から血をダラダラ流す源内を見て源内よりも青ざめた。 「我は……我はなんと……っ……一の式、失格だ……!」 大粒の涙を零しながら手当てをした後落ち込んで雲隠れした頼を探すのに難儀した源内は、今度こそは傷を負わぬようにとますます技に磨きをかけて向かうところ敵なし、稀代の仙術師の名声にふさわしき力を身につけていったという。 さて……そんなすったもんだの初めての発情期だったが、思ってもみなかったことがまたひとつ。 それは、大潮を三日ばかり過ぎた頃。徐々に弱まって来ていた頼の発情の気配が、交わりの最中にふっと消えた。 途端に人型の変化が解け、布団の上に伸びた頼を見て源内は驚いた。 「あれ……」 目を回して大の字になっている頼の妖体は、まるで元の大きさに戻っていたのだ。 いや……正確に言うとまるで元通りという訳ではなかったが…… 「遥希!よう測ってくれ!きちーんと測ったら、ちがうのだ!」 発情期を抜けた体に驚いたのは頼も同じであったが、源内も、後でその話を聞いた弦も雪も爆笑するものだから、悔しがって長い物差しを遥希に渡し、しっぽの先までピンと伸ばすのであった。 「3センチ!3センチ伸びたよ、頼ちゃん」 「……しっぽだけな」 「ししょー!もー!……らっ頼ちゃん大丈夫!!全体的におっきくなった感じするよ!」 「気休め感満載だね」 「もー!カズくんまでー!!」 さても平和な桃屋の面々。実は皆、子狐が子狐のままであるのが内心嬉しいのである。 柔らかで真っ白な幼毛も、小さな体も、恐らくはもっと早くに失われてしまうはずの一過の花であるのに、発情期を迎えてもそれを保とうとは。 「頼くん。おいで」 源内が着物の襟元を寛げると、しょんぼりした背中の子狐がじとっと振り向き……しかし主の優しげな微笑みを見ると全てを忘れたようにピョンピョーンとその胸に飛び込むのであった。 終
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