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見ぃつけた
いってきま~す!と出て行ったはずの遥希が半泣きで戻ってきたのは、あと二十分で一時限目が始まるという時間だった。ホームルームもじき始まるだろう。
「どしたの遥希!」
驚いたように立ち上がったのは頼である。日が昇っても薄暗い室内では、戦前?という雰囲気の和室で源内、頼、カズの3人がテレビを見ながら日本茶で一服中であった。
立て付けの悪い桃屋の入り口の戸をガタガタ開けて入って来た遥希の右足は、脛のちょうど真ん中から下がドロドロだった。
「今日提出のっ……課題っ……持ってくの忘れて……っ走って戻ったら……水たまりに…いやっ水っていうか泥たまり?カズくんっ…来てたんだ……ってか、何時……あーー!!もう間に合わないっ間に合わないいいいい……」
がくーっと土間にしゃがみこんだ遥希は「反省文30枚……30枚……うっうっうっ」と自分の膝に顔を埋めてべそべそ独り言を言った。
「ったく!送ってやるから早くズボンだけ何とかして!」
状況を察した頼が赤いギンガムチェックのエプロンを外しながら言うと、源内が「いや、頼くんはいい」と頼の手を引っ張って座らせた。無論、助かった!という顔をしかけた遥希は途端にひしゃげた。
「し~~しょ~~~!お願い~~~~!30枚イヤ~~~~~!!」
高くなった和室に尻を乗り上げて縋るような目線で泣きべそをかく遥希に、源内は「反省文くらいで泣くなよ」と呆れたように笑う。
「だって、30枚だよ、30枚!やったことある!?ないでしょ!?地獄だよ~~
一回ね、すみませんでした、すみませんでした、って延々30枚書いたことあんの。こんじょーで。そしたらバカッてゲンコツ喰らった上に50枚にされたの。ひどいよね!ゲンコツか原稿用紙増量か、どっちかにしてくれたらいいのに」
「そういう問題なのかね。とりあえず、臭いからはやく風呂場に行ってくれる」
狛犬というだけあって鼻がいいのだろう、カズは鼻の下に手をやって嫌そうに体を離した。
遥希はごめんごめん、と笑いながらズボンと靴下を脱いでまるめると、「ししょー!お願いっ頼ちゃん貸して!ね!」と言いながらワイシャツにネクタイ、トランクスという格好で風呂場の方に駆けて行った。
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