第5章  練乳煉獄

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第5章  練乳煉獄

1.逢魔  業務連絡ではなく私用の番号にその通話が入った時。  運悪く?一緒に食堂で飯を食っていたフランツは、瞬時に歪められたミロウシの横顔の、ほとんど殺意に近いほどの憎しみと…  嫉妬?  …に満ちた険しい表情を見てしまって…  ぎょっとした。  心配なので、慌てて着いて行く。 「…どした?!」 「優が。」 「あぁ?」 「…」 「なんかあったのか?」 「玄関に」 「あん?」  あと五分ほどで着くから車寄せまで迎えに来てやってほしいと、いけしゃあしゃあと連絡をよこした人物の。  なにかすごくフランツにも見覚えのある、誰だったか有名な顔を。  ミロウシは無言のまま、ぎらぎらと睨みつけ。  黙ったまま、お姫様だっこされたまま昏睡している優のからだを、  そっと受け取る。  相手はへらへらと上機嫌で色々と、勝手に時候の挨拶などをほざいた挙句に、 「じゃあ頼んだよ」と。  片手をあげて、再び自走車に乗り込み、構外へと去って行く。 「…あぁそうだ! アーリーくんはもう当分戻らないから、安心してくれたまえ! 今頃はCF撮りの後、TV局の連中に捕獲されて百人ほどで輪姦されてる筈だから!」  などと、窓から遠ざかる声を、残しながら… 「はぁ? …CF撮り? …って…?」  フランツが大声を出したせいなのか。 「…んん? あれ? …ミロ…?」  優がなかばだけ、眼を開ける。 「…寝てろ。部屋まで運んでやるから。」 「んん… 遅くぁって… ぐぇんねぇ…?」 「…寝てろ。」 「ん~ん…♪」  ものすっごく… 見たこともないほど… 幸せそうに。  全力で。遊びすぎて、疲れきった子どものような、笑顔で…  …熟睡。  ミロウシの胸板や首筋に、それが癖なのか、すりすりと額や頬を無意識に、すりつけながら…  くびすじに、濃厚な…、  きす・まぁぁぁくぅ…っ? 「ぉい…? 今の…?」 「…あぁ。文化観光施設整備開発局総括統合局長。ルーデル・ガーライル。」 「げぇっ? なんでそんな大物と、…すぐるクンが…っ?」 「…大本命だって噂もある。」 「はぁ?」 「アーリーなんかより、もっとタチの悪い。恋敵。」 「ありゃ…。えぇ? おっさん、幾つだよ?!」 「優が最初に『喰われた』のは十四歳の時だったとよ。」 「ひぇぇ! …犯罪じゃん…!」 「本人が懐いてる。…ものすごく。」 「ありゃ~…」 「当局も、村も、だからか、黙認してる…」  あまりにも、ミロウシの(嫉妬に?)殺気だった…気配が怖いので。  フランツは、適当な言い訳を口走ると、早々に、ダッシュで逃げ去った…。        *   悪いことに。  昨日のサバト時の、優の警護のために。  仕方なく飲んだ、例の勃起阻害剤の効力が。  一昼夜たった丁度いま…  切れかけて、いる…。 (………くそぅ…っ! なぜ今、いない。広明ッ!)  どさりと。  使いなれた合鍵で優の私室に無断のまま入り。  いつも気をつけてなるべく丁寧に扱っているのも忘れた勢いで、昨夜の。  あの破廉恥な騒ぎで乱れ過ぎた状態のままだった…  ベッドに。  眠り姫を。  投げおろす。  …起きない。 「…優! 起きろ! …歯ぁ磨いてから寝ろよ! …おい!」  喉にからむ声で、荒い息で。  それでも必死に平静を装って、片手で…  なるべく接触面積は少なくして…、  揺すってはみるが…  起きない。 「着替えろ!」  …起きない…。  喉にも首にも頬にも腕にも内腿にも足首にも…  激しい、愛撫の痕。  そして昨夜の分であろう、アーリーの噛み傷。  きのうアーリーがすぐ目の前で手荒に、  優を犯していた、  …ベッド…。 「いやぁ!」と 優が脳内で泣き叫びながら…  乱れる。 「…………ぐぅッ…」  ミロウシは、呻いた。  …限界だった…。        * 「……………えっ?」  乱暴に。  限界サイズの怒張を突き入れた瞬間に。  からだの下に組み敷いた優は…  跳ねるように、眼を開けた。 「あっ…!?」  視線が合った瞬間、ミロウシは愕然として正気に返ったが。  もはや、体は、止まらなかった…。  突き込む。  根元まで…! 「…ぁあぅっ…!? ??!」  つい先ほどまで、他の男の愛攻を、受け続けていた。そこは…  ぬらりと。 「あっ …あっ…!  ………ミロッ…????!」  驚いたような。  怯えたような。  哀しんで…いる?  ような…? 「…どうしたの…! ミロ! …なんでッ? …泣いてるの…ッ!?」  …ちがった。 「…どうしたの、ミロ! 悲しいの? …痛いの…っ?」 「…優…!」 「ミロ! ミロ!」 「…優…!」 「あぁっ!…?」  乱暴に、両脚を抱え上げて。…開いて。  突く。  突く。 「えっ…ミロ…!? あぁ…っ??」  よくわからない。という表情で…  優は…  親友を…  抱いた。  せいいっぱい…  細い、  両腕で… 「ど… どうしたの…?」  どうもしない。 「どうしたの? ミロ…?」  ただ。 「ミロ… ミロ…!」  おまえが…  いとおしい…!          *      きのうもきょうも限界を超えておとこたちの身勝手を受け容れさせられてきて疲れきったからだだということは頭ではわかってはいた。  休ませてやらなければ!  と、理性は悲鳴をあげた。  でも!  優が!  うでを…  まわしてきたのだ!  …両肩に…! 「ミロ…?」  目を見つめて、苦しそうに…  微笑んだのだ…  優しく! (…すまん…! 広明…!)  親友の名を、魂で… 呼んだ。 (…すまん…! 優…! 優…ッ!)  愛しいあいての名を… 「え? …ううん…?」  痛いだろうに。  激しく、こすられながら…  優は…!  ほほえんだ…。 「ぼく、ミロ、挿れてもらえて… 嬉しい。」  にこりと。 「たまには、ぼくにもっ …甘えてくれて…!  嬉しい…ッ!」  ぶばりと。  ぶちまけた。  おのれのなかの、みにくいものをすべて…!  …なによりも…!  護りたいはずの…  すぐるに…ッ!!!!!!        *      むりやり突き込んだまま抜きもせず、  情け容赦もなく細い内臓の繊細な弱い内膜を。  攻めに責めて。  何回?  犯したのか…  思い出せない…。  精根尽き果てて。  哭きながら逃げるように立ち去ろうとしたら、優が。  なかば気を失いながらも、細い腕を搦めてきて。  必死で、引き留めた。 「…だめ、ミロ。いっちゃ…だめ…!」 「…すぐる…?」 「…ぼくもう起きてられないから…! あした、話、きくから…!」  しがみついて。  ぜったい離さないぞと。  ミロウシの腕と、頭を抱えて。  眼を、まっすぐに…見つめて。  よしよしと、自分より遥かに大きな巨漢のあたまを撫でて…  笑うと。  すぅ、と… 「ぼくが… 起きるまで… いて…!」  優は、気絶した…。 2.朝礼    眼が覚めるとすぐ前にミロウシの顔があったので。  優は嬉しくなってにっこり笑った。  それから、あいてが泣き腫らした真っ赤な目をしていることに気がついて、慌てた。 (…えぇと…?)  なにがあったんだっけ?  とっさに思い出せない。 (夕焼けが…。 紅くて… 綺麗で…)  つまりはそんな時刻に至るまで、お風呂で、  主客の色情に…  溺れさせられて。  喘ぎながら絡みついて、啼かされていた。  わけで… (…どうやって帰ってきたんだっけ…?)  そこで、あっと気がつく。  ミロに…!  運んでもらって…! (…それから…?)  はたと。  気がつく。  …ミロ!  …泣いてる…!!??  慌てて起き上がろうとしたが、腰が動かなかった。 「…ぁっ…!」  おもわず倒れ伏す。  怠い。とにかく…重い。  全身!  とくに…腰が! 「…ミロぅ…」 「あぁ?」 「動けないぃぃ…!」 「…すまん…!」  泣いてる。  土下座する勢いで。  泣いてる…。      *  とりあえず…  がんばって…  腕を伸ばして…  よしよし…  してみる… 「…うんとね…?」  なんて言ったら、いいのかな…? 「ぼく、怒ってないよ…?」 「…!」 「えと…」  もっと激しく泣きだしてしまったので、心底困った。 (…ちょっと違ったらしい…) 「ミロのこと、大好きだよ…?」 「…す、ぐる…っ!」 「…でもちょっと驚いた…。」 「…すまん!」 「えぇと…。今度から、ちゃんと起きてる時に、まず口で言ってね…?」  …震えてる…。 「ぼく、ミロのためなら、なんだってするし。  なにされても、赦すから。」  …泣いてる…。 「ちょっとくらい痛いのとか、ぜんぜん平気だったから!」 「………すまん………ッ!」  ほんとうに。  ミロが。  辛そうで…! 「えと…」  優は、困った…。      *  食いしん坊の優が朝食の時間に食堂に起きて来なくて。  真っ赤な目を伏せたミロウシだけが、こそこそと降りてきて誰とも目を合わさずに済むよう高くて不味いと不評のレンジ飯だけ自販機で二人分を買って、 優の部屋へ持って行く。  朝礼5分前には二人一緒に、野外装備はきちんと整えて、集合場所に来て。  困った顔でよろよろしているだけの優と。  いっそ死刑にしてほしいという顔のミロウシ。  何があったかなんて推測がつきすぎて、誰も話しかけられない。 「時間だ! 朝礼を始める! まず初めに!」    そんな空気は一切読まないことに決めているらしい所長がきっぱりとマイクを握った。  こちらはこちらで。なぜかものすごく、機嫌が悪いように見える…。 「説明が面倒なのでこれより本日から放映予定のCF映像を大画面に映す!  以下詳細は各自の端末に送信済みだから早目に眼を通しておくように!  本日以上!」  はぁ? と一同が点目になっているうちに空中映像が投影された。  ちゃんちゃんちゃらる~♪  と、おなじみの地元情報番組の朝のテーマソングが鳴り響いて。  きゅるっと早回しで省略部分が飛んで。 『ではこちらが! その噂の昇天茸なんですね~www』 『…いや~ん! なにこれ~!www』  アップで投影される珍妙なキノコの姿に、女声の黄色いキャー☆と男声の野太いウォー!という歓声がひとしきり。  ごほん。と咳払いして…  ルーデル局長が登場。 『工場内で無菌培養されたものは以前から製薬原料として商品化されておりましたが…』  …きゅるるっ 『…ということで、このたび皆様のご要望にお応えし、惑星(ティアラ)温帯植物園内常設売店にて、季節に応じた数量限定ではありますが、市民の皆様にもお求め頂きやすい適正価格にて、天然物を販売させていただく運びになりました…!』 「…はぁ?!」  朝礼参加者一同、寝耳に水なニュースに驚く。  所長がぶすくれて職務放棄しているので、同性の性的伴侶でもある冷淡美人な副所長が、代わりにマイクを握る。 「裏ルート限定で超のつく高値でこそこそ取引されているから、無駄に盗掘者どもが涌くんだ。市販品にして市場価格を下げてしまえば、割に合わない商売からは向こうが自主的に手を引くだろうと。局長の御提案で…。  監視カメラ設置と並行して昇天茸の自生地域と現存株数等を精査した結果、胞子を飛ばした後のものに限ってなら、販売用に一定量採取しても絶滅の危惧はない。という結論に達した。  扱いとしては、今までも販売してきた食用と健康茶用の野草山草類と同じ棚に並べる。」  …きゅるるっ 『…それで? そ~の効果はっ? …噂の通りなんでしょ~か~っ??』 『えぇ。そこはまったく問題なくご満足いただけると思いますよ?  実をいうと私もさっそく職権を濫用しまして、ひとつ試してみましてね…』  得々とした顔でのたまう、ルーデル局長。 「えっ?」…と優の声が小さくフロアに響く。 『これこの通り。妻も!大満足でして…』  後ろから現われた若くて豊満な肢体の超美女が、にっこり笑って銀の混ざる黒髪の熟年紳士の頬にキス…。  …きゅるるっ 「…今の、アレだよな? 局長自慢の、…現役モデルの美人若妻!」 「七番目だっけ? 二十七歳年下の、再婚相手…」 「いや、愛人も入れて常時七人。って常設ハレムじゃなかったか?」 「…………えっ?」  …再び。優の…小さな、声が響いた…。 「…奥さん? …いたんだ…? …な、…七人も…?」  ぽろりと…  優の大きな両眼から、水滴が…  ぽろぽろと…  こぼれはじめた…。 「…あれ? 変だな…。 なに…? これ…????」      *  …きゅるるっ 『さ~て、今日は! もうひとつ!  悩める中高年紳士の皆様に!  朗っ報が~っ!』  なぜか?  いきなり! アーリーのアップが! 「…えーーーーっ!♡」  サバト常連の生贄たちが、悪魔風な装いのあまりの華麗さに色めきたつ。  最近流行の曲に合わせて、ひとしきりジェジュアタ特有の超絶美形ぶりの強調ショットが色々と映し出されて。 「老若男女を問わず!もてもて~!」  …などと、無責任なアオリ文字が入り。 『…皆様っ! ご存知でしょぉ~かぁ!  噂の《セックス・ヴァンパイア》!…と呼ばれるジェジュアタみたいに!  なれるオクスリは、超高価な《昇天茸》だけじゃないんですーっ!!!』 『…えぇっ? それは! …耳よりな! お話じゃないですか~!!』  …続いて紹介された薬剤名が。 「ぅぇぇ…!」  別の用途でよく知られた商品だったので、男性一同から悲鳴が洩れる。  朝の通販番組定番の、叩き売り名調子で知られる中年タレントが絶叫する。 『…逆もまた真なり! 今まではっ!  副作用として嫌われていた部分に逆に着目し!  このたび改めて認可を取り直しました~!  …《二十四時間、待てますか!?》  …愛しい妻や! ぴっちぴちの若い愛人と!  うきうきうっき~! デートの! 前日に!  きちんと計画的に! 呑んでから! お出掛け!  すっれっば~ぁ…ッ!  服用二十四時間後! きっかりから約十時間! 【回数無制限!絶倫男!】に!  なれること、請ッけッ合~い~!ま~~~すッッ!!!』  …と、絶叫されて。  薬効レポートとか、効能グラフとかアンケート集計表まで、出てきて…。  …物も言えずに、ミロウシが、地に伏した…。
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