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霞む視界の先で、彼があまりにも消えそうな顔で笑うから…。
私は彼の元に行こうと、必死に足を動かした。
「待って…っ!」
あと少し。あと少しのはずなのに、その距離がなかなか縮まらない。
膝上まで覆う水が酷く邪魔だと思った。
彼が月の光を浴びて、悲しげに微笑む。
まるで、こっちに来ては行けないと、
私がそこに行くのを拒むように…。
何故だろうか。
彼のその美しい瞳から涙なんて出ていないのに。
泣いているようだと、そう思った…。
待って。
ねぇ、待って。
その時、少しだけ、彼の唇が揺れた。
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