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少し躊躇うようにして、彼が言葉を紡ぐ。
『……思い出して。』
声にならない声で彼が言う。
「どうして…」
どうして、そんな表情で、私を見ているの。
どうして、そんなに泣き出しそうな瞳をするの。
私は、なにかを、忘れているの…?
聞きたいことなら、沢山あった。
それなのに、たった一つさえ形にはならなくて。
霧で完全に彼の姿が見えなくなる直前、
もう一度、声にならない声であなたが言う。
『…思い出して。』
全てが白く包み込まれていく中で、
彼の声だけが頭に残る。
酷く美しいと思った。
悲しげに微笑む彼も。
月の満ちないこの世界も。
ねぇ、あなたは、なんで…。
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