夢から醒めても。

1/5
前へ
/11ページ
次へ

夢から醒めても。

身体に纏わり付く冷たい夜風に目を開けると、いつの間にか月は空の天辺にのぼっていた。 縁側で眠ってしまってから、一体どれ程の時間が経っていたのか。優しい満月の光が、あの美しい夢から醒めたことを物語っていた。 ふと、ゆらゆらと揺らぐ視界に自分が泣いているのだと知った。今も脳裏に焼き付いているのは、桜のように儚い彼のこと。 彼は今もあの場所に居るのだろうか。 月の満ちることの無い、時の止まった孤独な箱庭に。いつものように寂しげな表情で佇んでいるのだろうか。 『思い出して…。』 確かに動いた唇が示した言葉が心に突き刺さる。 「彼は、だれ…?」 何度も繰り返した問いは、結局今日も分からないまま。小さくため息をつき、身体を起こす。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加