5人が本棚に入れています
本棚に追加
夢から醒めても。
身体に纏わり付く冷たい夜風に目を開けると、いつの間にか月は空の天辺にのぼっていた。
縁側で眠ってしまってから、一体どれ程の時間が経っていたのか。優しい満月の光が、あの美しい夢から醒めたことを物語っていた。
ふと、ゆらゆらと揺らぐ視界に自分が泣いているのだと知った。今も脳裏に焼き付いているのは、桜のように儚い彼のこと。
彼は今もあの場所に居るのだろうか。
月の満ちることの無い、時の止まった孤独な箱庭に。いつものように寂しげな表情で佇んでいるのだろうか。
『思い出して…。』
確かに動いた唇が示した言葉が心に突き刺さる。
「彼は、だれ…?」
何度も繰り返した問いは、結局今日も分からないまま。小さくため息をつき、身体を起こす。
最初のコメントを投稿しよう!