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空を覆う大きな満月は、そんな二人を優しく照らす。
「…また、あの夢を見ていたの。」
ぽつりと、私が言葉を零すと、楪の瞳が少しだけ揺らいだ。
「…そう、ですか。」
その優しげな表情は何一つ変わらないのに。その笑顔はとても哀しいものに見えて、どこか夢の中の彼と重なって見える。
「楪…。」
その言葉の先に、何を言えばいいのだろう。何を聞いたらいいのだろう。見つかることのなかった言葉の先は、ただの沈黙に変わってしまう。
他の誰よりも近かった幼馴染の距離感は、いつの間にかただの重苦しい主従関係へと変わった。楪の真っ直ぐな笑顔を、こんな作り笑いに変えてしまったのは、きっと…。
泣き出しそうなのを必死に堪えて、
「そろそろ中へ入りましょうか。」
と、笑ってみせる。苦しみも悲しみもこれっぽっちも悟らせないように。
「…そうですね、お嬢様。」
そう言って、私の手を引いて立たせてくれた楪の瞳は、もう揺れてなんかいなかった。
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