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( 無い、無いわ。どこにも無い。)
さっきから百合子は、今日子に渡された汚くて古い箱の中のハガキの束を引っかき回していた。30分は探しているが見つからない。ホコリだらけのハガキの山の中から恵梨香さんの年賀状を必死で探す百合子の手はダニのせいか赤く腫れあがり、かゆくてかゆくてたまらない。
1月1日元旦の朝、富士子は夫の信雄と2人で信雄の実家である松山家へ来ていた。20歳を超えた2人の息子達は松山の家に寄り付こうとはしない。今までの行いの報いだ。
信雄がゆずを収穫しようと庭に出た時、今日子が幸太郎に言った。
「 幸太郎ちゃん、幸太郎ちゃんの娘に振袖の案内が来てたよ。家に案内を出すなんてねー。」
信雄の弟の幸太郎は今、栃木県に住んでいる。盆と正月には富士子が交通費を送っているが何年ぶりかに帰って来た。幸太郎は娘さんに養育費も払っていないし会ってもいない。元の奥さんと娘さんの名前を言う事は松山家では禁止と今日子が20年前に決めた。目の前でカニを食べていた幸太郎はその言葉を合図にタバコを吸いに自分の部屋に入った。
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