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「 あるもんね。あたしがお父さんが死んだ時に全部捨ててやったが。あー面白かった。富士子をだますのは簡単だね。バカ正直ですぐに信じて全く使えない女だよ。関係ないのに。」
大きな声で罵り続ける今日子を見ながら富士子はこの光景をずっと見ていたように感じた。今日子は富士子の母親にソックリだった。今日子は信雄がいなくなった時には必ず富士子に嫌みを言う。富士子は今日子を見つめるのをやめて部屋の中に視線を移す。エアコンもテレビも座椅子も冷蔵庫も洗濯機も家の中にある物全ては富士子がお金を出して買った物だ。
信雄が柚子をたくさん持って戻って来た。
「帰ろうか。」
「 はい。」
高速の車の中で富士子は信雄の横顔を眺めながら、
( 何度同じ事を繰り返せば良いんだろう。いつも同じ気持ちになる。)
巡り巡った心象が散らばった声を壊している。
いつものように富士子は信雄に何も言わない。言う事が出来ない。富士子は小さい頃からずっとそうだ。実際にあった本当の事を言う事が出来無いんだ。
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