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「颯さんはどうしてここに?」
なんの前触れもなく、急に教室に尋ねてきた新田に尋ねた。
新田は顎に手を添え、少し上に目を向けながら考える仕草をしている。そしてすぐ後に苺摘の方を見て微笑んだ。
「そうだね…うーん。君の顔が見たくなっちゃって」
にこにこと笑みを浮かべている。その柔和な笑みは、誘惑するように目尻が細められている。苺摘の側まで行くと、舌舐めずりをしながら耳元で囁いた。
「君って本当に美味しそうだね」
「お、い…何て……?」
間近に見えた新田の細い瞳孔が更にキュッと締まった。
「颯、いい加減にしな。環も怒ってるよ」
隣で見ていた山中が彼を窘めた。新田は戸惑わせてゴメンネ?と苺摘の肩にぽんと手を置いた。苺摘が波旬を見れば、今にも人を殺しそうな勢いで新田を睨み潰している。
「ごめんな廻兎。ウチの所の生徒会長、とんでもない変人で有名なんだ。悪い人ではないから、そこは安心して、欲しいんだけど…」
山中は申し訳なさそうに苺摘に謝った。しかし、語尾が濁ってしまっている。唯ならぬ波旬の様子を見ての反応だった。
先程から波旬から放たれる殺気がとんでもないものだった。新田は全くもって気にしていないが、波旬は彼に対してあからさまな嫌悪を出していた。しかし態とらしく新田は悲しそうな顔をしている。
「環くん、そんなに怒らないで。僕はまだこの子をどうこうするつもりもないのに」
「…チッ」
波旬は目を逸らした。新田は肩を竦めている。
「千尋、放課後に二人を連れて生徒会室に来て欲しい。これからの事を教えようと思って。よろしくね」
「分かった」
それだけを言い残すと、新田は颯爽と教室から出ていく。一体なんだったんだと苺摘は呆然としていた。
「環がどうしてこんなに颯の事を嫌っているのかも、後で分かるよ」
「う、ん…分かった」
山中は困ったように笑っている。波旬は何かを言う事もなく、無言のままサンドイッチにかぶりついていた。
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