悪魔との契約

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 苺摘の不幸体質は、前世の彼が悪魔と契約した事により作られたものだった。彼には、窮地に立たされ、思考の纏まらない間に悪魔に誘惑された過去がある。  悪魔と契約を交わした苺摘は、生まれ変わってから壮絶な人生を送っていた。それは悪魔により仕向けられたもので、どれも苺摘が絶望し、自殺をするように促すものであった。  幼い頃に両親が他界し、養子として育てられてきた。しかし、愛は与えられなかった。学校でも友達はおらず、今世で人としての一般的な幸せを感じた事がなかった。  しかし、苺摘がめげる事は無かった。前世で愛した波旬の幸せを確認するまでは、必ず死んでたまるかと思って生きてきたのだ。  高校生になり、それが叶った。波旬と再開した苺摘は、生まれ変わって初めて笑みを浮かべた。しかし、そこから更なる地獄が始まった。  より重い悪魔の魔の手が差し掛かってきたのだ。記憶の混濁が生じ、苺摘は徐々に狂っていった。そんな彼を、波旬は傍で見ていた。その姿は見るに耐えられなかった。悪魔と契約を交わした苺摘が苦しむ姿を、目の前で見せられ続ける苦痛は、筆舌に尽くし難いものだった。  だから、波旬が悪魔という存在を酷く嫌うのも当たり前の事なのである。苺摘自身も、悪魔に対して良い印象を持つ事は出来なかった。  極上の魂は、堕ちた物程、絶品に仕上がる。  悪魔が魂を頂くには、とある条件があった。  契約を交わした人間が自ら命を絶つ。  これが悪魔が相手の魂を食らう為の方法だった。寿命を全うするか、他人によって殺められれば、相手の魂を食べる事が出来ない。  今の苺摘は、悪魔によって開かれた口の上で綱渡りをしているようなものだ。その綱が揺さぶられ、振り落とされそうになる中で、苺摘は必死に生きようと生に縋りついている。  だから、運命に足掻く為に波旬は奔走している。この学校に来たのもそれが目的だった。  苺摘が悪魔と交わした契約を無かったことにしたい。波旬が憎らしい程嫌いな悪魔である新田とコンタクトを取ったのには、そんな理由があった。  二人がこの学園に転校する事になったのも、新田の条件を飲んでの事だった。完全には信頼していない。しかし、彼らにとっての解決の糸は、新田によって握られているのが現実だった。
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