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新しい生活
これは、木枯らしの吹き荒ぶ、冬頃の話である。
早朝の事、寮の部屋で、苺摘は学校へ向かうべく制服に着替えていた。
ワイシャツのボタンを締め、赤いネクタイをタイピンで留める。そして上から黒のブレザーを羽織った。襟には白のラインが入っている。
よし…、準備万端。と息を抜くと、近くから気だるげな声が聞こえた。
「あー…ねみ」
声は窓際からしている。苺摘はそっちを向いて声をかけた。
「ネクタイ締めろよ、それで行く気か?」
相手はボサボサな髪のままネクタイを首にかけて面倒くさそうな顔で夜空を眺めている。
苺摘は彼の前まで行き、しゃがんでネクタイを直してやった。相手は抵抗をする事もなく、されるがままになっている。
「今日から新しい学校生活だな、波旬」
苺摘は苦しくならないようきゅっとネクタイを結び、彼の胸元をぽんと叩いた。
波旬 環。
それが彼の名前だ。金髪の髪を少し長めに伸ばしていて、普段は軽く後ろに髪をまとめている。左右の目は色が違っている。左目は黄味がかった灰色、右目はくすんだブルーの瞳を持っていた。
見ている分には十分に綺麗な眼球を持っている筈なのに、本人はそれがコンプレックスらしい。右目がかかる程度に前髪を伸ばしており、左右不対象な自身の瞳のパーツを軽く隠していた。
波旬はその生まれ持った美貌を武器に、雑誌のモデルをしている。人気もあり、彼を認知している人も多い。特に若者には人気だった。
そんな彼は気だるげに言う。
「だり…」
「まーた、その単語」
夕方に起きてから、波旬は、ねみ、だり、帰りてぇの3つしか言葉を発していない。
最後の3つ目に関してはまだ寮の部屋からも出ていないのに、とんだ倦怠感だ。苺摘は思わずため息を吐いた。
「いこう、波旬」
手ぐしで波旬の髪を軽く整えてから、彼のの手を取る。二人は校舎へと向かうべく部屋から出た。
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