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「ここに通う生徒達って、どんな人達なんだろう」
「…人間じゃねぇ奴らの集まりだろ」
波旬はここへ来てからというものの、何故か不機嫌だった。苺摘の隣からイライラとしたオーラが伝わっくる。なんでこいつはこんなに警戒しているんだろう。そう思いながらも、自分の体質の事もある。寧ろ波旬が自分以上に気を張っている事が申し訳ない。苺摘は気にしないようにして答えた。
「周りの人は普通な気がするんだけど」
「表向きはな」
寮から校舎に向かう人達は何処も誰もが普通の人の形をしていた。とんでもない不良という訳でもなく、何処か病んでそうでもなく。ただただ普通だった。
何故このマイノリティな存在である夜間学校に通っているのかが分からない。それくらい平凡な人達だった。噂に聞けば、この学園自体も人気だと聞いている。誰に、とは流石に知らないが。
「どんな生活が始まるんだろう」
苺摘はボソリと呟いた。
生まれてこの方、苺摘には学校生活でろくな思い出がなかった。楽しい青春時代というものが何かを体験出来ていない。
友達なんていた事もないし、痛くて惨めで寂しい記憶しか彼にはなかった。
理由は苺摘の不幸体質にあった。彼に絶望を与え続ける呪いが、苺摘にはかかっていた。自殺を促すように仕向けられてしまうのである。それは必ず避けられないもので、過去にも苺摘は何度も窮地に立っていた。
それでも苺摘はまだ生きている。波旬のお陰だった。
「…知らねーけど、俺がいるから。ここはいけ好かない場所だけど、一番安全だ」
不安で俯き気味になった苺摘の手に、波旬がぎゅっと力を込めた。
「うん、そうだね。もう大丈夫。ここは波旬が手配してくれた所だから」
エントランスに立ち、校舎の中を見ると、廊下には赤いカーペットが敷かれていた。夜だからというのもあるけれど、少しだけお化けか何かが出てきそうな雰囲気を感じる。
これが俺の新しいスタートの場所か…。
次こそは平和な日々を。
そう願いながら苺摘は歩を進めた。
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