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「と、友達が出来た…」
苺摘は握手を終えた自分の手を眺めながら、思わず感嘆の声を漏らした。
「苺、声に出てる」
それを波旬は小声で指摘してきた。山中はくすくすと笑っている。悪意のない笑みだった、それに苺摘は安心した。
しかし、急にはっとして波旬を苺摘は見た。俺以外の人間と関わるんじゃねぇ、監禁するぞ。波旬以外に友人というものを持った事のない苺摘は、そう言われるかとヒヤヒヤしていた。しかし、何故か波旬は見た感じ平常心だった。ほっと胸を撫で下ろす。
「ただ、名前呼びは許せないな」
「は?波旬、それはどんな規準…?」
「波旬じゃない」
何故か波旬が己を否定している。一体どうしたのだろうか、新しいキャラ作りでもするつもりなんだろうか。苺摘は波旬を心配げに見つめた。
「どうしたの、波旬「環」え?」
波旬は苺摘が苗字を呼ぶのと同時に声を重ねてきた。そして、再度訂正してくる。
「環って呼べ」
「え?あ、うん…環」
平常心に見えて、しっかり嫉妬していたらしい。波旬…もとい、環は、苺摘の名前呼びに満足気な表情を浮かべている。
という訳でもなく、表情を一切変えず、言葉も返さずに話はもう終わったと言わんばかりに前を向いた。
「俺も環って呼んでいい?」
「お好きにどうぞ」
「雑誌、買ったよ。凄くかっこよかった」
山中は波旬がモデルを知っているらしい。憧れを含ませたキラキラとした瞳で彼の事を見ていた。
「夜間学校なんて初めてだろうから、皆二人の事色々助けてやってくれよな。んじゃ、ホームルームやるからなー。今日の日直、アレやってくれ」
曜の声により、日直が号令をかける。「起立」という言葉と共に、苺摘達は立ち上がった。
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