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単にモデルが男だというだけで、つまりは男性ファッション誌の撮影というところだろうか。そんな大袈裟な前置きをするほど珍しいことでもないだろうに――と、遼二は小さな溜め息を漏らさずにはいられなかった。
だが、まあ確かにこのモデルの男は一種独特の雰囲気があるというか、とにかく美形という以外に例えようがないような顔立ちをしている。
身長は一八三センチの自分と同じか――若干低いくらいだろうか、細身だがヤワな印象はなく、華奢というほどでもない。洋服越しにでも分かる筋肉もほどよく付いていそうで、十分に男らしく魅力的な上に、薄茶色のやわらかな巻き毛が首筋あたりまである少し長めのショートヘアが額に掛かってなんともいえずに色っぽい。好み云々を抜きにしてほぼ万人が見惚れるだろうと思えるようなこの男は、モデルの中でも群を抜いているのだろうということは、如何に新米の遼二であろうとすぐに理解できた。
そんなことを考えながらしばしボーッと男に見とれてしまったというのだろうか、氷川にポカッと頭を小突かれて、遼二はハッと我に返った。
「何ボサッとしてんだ遼二! ほれ、挨拶! こいつは今日のメインモデルを務める一之宮紫月だ。見ての通り抜群の男前の上に、この雑誌でもナンバーワン人気のモデルだからな。失礼のないように気を配れよー?」
見とれていたのがモロばれだというように、ニヤッと笑いながら氷川がそう言ったのに対して、遼二は少々バツの悪そうにペコリと頭を下げてみせた。
そんな様子に男の方はクスッとおかしそうに笑うと、いきなり至近距離まで身を乗り出すようにしながら、
「へえ、すっげイイ男じゃん? 助手なんかにしとくの勿体ねえくらいだな? よろしく遼二」
ニヤリと瞳を細めてそう言った。
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