魅惑の彼

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魅惑の彼

「紹介するよ。先週からアシスタントに入った鐘崎遼二(かねさきりょうじ)だ。まだ若いがいい感性を持ってる奴でね。ま、経験は浅いし手際の追いつかねえところもあると思うが、よろしく頼むよ」  師匠である氷川白夜(ひかわびゃくや)からそんなふうに紹介されて、鐘崎遼二は初対面のその男の前でペコリと頭を下げた。憧れの新鋭カメラマンである氷川の助手として使ってもらえることになって、数日めのことだ。  今日の撮影はちょっと珍しい部類だから覚悟しとけよ――と、おどけ気味に言われて付いて来たスタジオで紹介された一人の男。一目でモデルだと分かるような雰囲気をまとったその”彼”は、ひどく艶かしい色気を醸し出していた。  遼二は、これまで氷川に連れられて三度ほどスタジオ入りを経験していた。そのすべてが今現在人気の女性ファッション誌の撮影だったこともあり、モデルに対しては見識ができつつあったというか、徐々に見慣れてきたというところだった。  普通ならおいそれとはお目に掛かれない、今をときめく美人モデルたちがすぐ目の前にいる。それだけでもちょっとしたカルチャーショックというか、とにかく驚きやら感動やらで軽い興奮状態、一時仕事に来ているということを忘れるくらいの衝撃だったのが記憶に新しい。  その氷川が少し含み笑いをしながら『今日の撮影は今までとは毛色が違うんでな』と、まるで楽しげに、ともすればからかうようにそんなことを言うものだから、ひどく興味を惹かれて来たというのに――紹介されたのがこの男だったわけだから、なんだか肩透かしをくらったような気分にさせられてしまったというのが正直なところだ。
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