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RAGOU Ⅲー1
夕暮れ時の丸の内オフィス街。
定時上がりのOLや、外回り営業から帰社途中の会社員などが足早にすれ違う時間帯。
スーツ姿の男女が行き交う中、場に不相応にも見えるオレンジを基調としたカジュアルテイストの格好の若者が鼻歌を口ずさみながら軽やかに歩いていた。
「ふんふんふ~ん♪」
やや小柄な体型に似合った小綺麗な童顔に爽やかな笑顔を浮かべながら雑踏を抜けていく。
明るい茶色の髪を揺らしながら、跳ねるような足取りでメロディを口ずさんでいる。
道往く人達は、それまで忙しそうに動き回っていたのにも関わらずピタリと足を止めて彼を眺めてしまっていた。
「ふんふん♪ふふん♪」
彼が衆目を集めているのは、その魅力的な笑顔の所為でもなければ、一際目立つ服装の所為でも、その歌声が聞き惚れる程に素敵であった訳でもない。
しかし……何故か心が反応する。
彼の上機嫌な感情がそのまま自分達に流れ込んでくるかの様。
擦れ違い様に彼の鼻歌を聞いた者は、自然と笑顔と成り、その颯爽とした後ろ姿を見送らずにはいられなかった。
と、その時。
「あ、あそこ!人が居るぞ!」
若者の居る場所から少し先に行った辺りで大きな声が上がった。
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