見えない明かりもたずさえて

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 視界の端で、何かが光った気がした。  小絵(さえ)は辺りを見回すが、あるのは夜の街だけ。等間隔で並ぶ街灯しかない、代わり映えのしない帰り道。  気のせいか。小絵は首を振ってため息をついた。  六連勤も二週目の最終日。理由はそれだけではないが、それだけ疲労が溜まっているのかもしれない。残った夏がまとわりつくのも気のせいだ。足元数センチ、水の中を歩くように、夜の暗さに足を取られている感覚も気のせい。アパートまでの距離はいつもと同じ。  早く帰ろう。でもその前に食料を調達したい。冷蔵庫にチューハイは入っていたが、すぐに口に運べるようなものはなかった。  カバンを肩にかけ直しながら時計を見ると、八時半過ぎ。まだあそこのスーパーが開いている。この時間は総菜が値下げされているのだ。少しお高めのお店で普段足を運ぶことはないが、値段だけあって味はいい。今日は頑張った、本当に。えらい。これくらいのご褒美でも足りないくらいだ。  誰にも言われないから自分で自分を褒め称えて、小絵は舵を右に切った。  ちかり、と何かが光る。今度こそ気のせいではない。小絵が右を向くと、このスーパーに来る時は必ず横を通る、小さな公園。  二面はビルの壁と向かい合って、片側に桜、もう片側に銀杏が植わっている。道に沿った二面は腰ほどの高さの生け垣に囲まれ、中には滑り台とシーソー、申し訳程度の小さなジャングルジム。  電球が切れているのか、公園を照らす街灯は眠ったまま。薄暗さに囲まれて、誰もいないと思ったのは一瞬。すぐにまた光が瞬いた。  光源は公園の真ん中にいる男の子。洗面器を大きくしたような水色の桶を前に、しゃがみこんでいる。  近所の小学生が夏休みの研究でもしているのかと思ったが、考えたらもう九月も半ばに近い。社会人になってカレンダー通りの休みでなくなってしまうと、そういったことにとんと無頓着になってしまう。一、二年目は大学の名残でそれなりに気にしていたが、四年目ともなればこんなものだ。  男の子は立ち上がると、桶をゆっくり引っ張ってほんの少し動かして、手にした懐中電灯のようなものでまた一瞬、それを照らす。そしてまた、桶に手をかける。
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