見えない明かりもたずさえて

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「抜け出せない真っ暗の中で、進めなくなっちゃう人がいるから」  涼しい風が、少年と小絵のあいだに流れる。変わらない距離が、少しずつ開いていく。少年はまた、遠くをみるようなあの大人びた笑みを浮かべた。 「そういう時のために、みんな自分で明かりの欠片を貯めてる。でもそれだけじゃ、どうしようもなくなっちゃうこともあるから」  ふと、また月が陰る。雲に覆われていないところはあとわずか。  これで最後だ。  小絵は思って、深呼吸をした。 「ありがとう」  見せてくれて、見つけてくれて、明かりをくれて。 「――うん」  少年はふわりと笑った。今までのどれとも違う。他の何のためでもない、少年の笑顔だった。 「じゃあね」 「うん、じゃあ」  これでお仕舞い。小絵は少年にうなずいてみせて、踵を返した。公園から踏み出して、そのまま足を進める。  もうきっと、会うことはないのだろう。  さっきまであった、惜しむ気持ちはない。魔法の時間は終わってしまったけれど、小絵が手にしている夜空は、さっきまでが今に続いていると教えてくれる。これだってもしかしたら明日には、空に溶けてしまうのかもしれない。それでも今日の出来事は小絵の中にある。  終わったけれど、続いているのだ。いいことも、嫌なことも、全部。  とりあえず明日はいい休日になりそうだ。小絵は笑みをこぼして、手のなかの小さな月明かりと一緒に、夜の街に歩き出した。
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