【転】御子柴悟

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「そこで僕は考えたのです。今回の事件、大和社長が祟りで亡くなったのも、清涼殿と同じ原理ではないか、とね」  木嶋の顔色が変わった。いや、カゲリが菅原道真の話をしていた時から彼女は必死に何かを堪えるように縮こまっていたのだが、今の台詞をきっかけに反応が顕著になった、と言うべきか。  その隙を逃さず、カゲリは畳み掛ける。 「実のところ、落雷により室内で命を落とす可能性は全くないとは言い切れないんです。例えば、落雷時に電気の通っている電化製品に触ってしまう……とかね。仮に大和社長の死を不慮の事故としましょう。しかし、誰かがその事故を後から『祟りのせいだ』と言ったなら?」  原因が何であろうと関係ない。人々の間では、大和社長は祟りで死んだことになる―― 「ねェ、木嶋さん」カゲリは青褪めた木嶋の顔を覗き込んで、ゾッとするほど低い声で囁いた。「アンタ、ひょっとして大和社長が亡くなった場面に居合わせたんじゃないか?」 「え!?」  驚きの声を上げたのは僕だけだった。木嶋は青い顔のまま、ずっと俯いて何かを堪えている。あと少しでも突いたら、決壊してしまいそうな危うさがあった。しかし、その程度で容赦するようなカゲリではない。 「事件当夜、残業していた人間が何名かいたそうだが、タイムカードにはアンタが帰宅した記録がない。そしてアンタは亡くなった社長の秘書だ。何か知ってることがあるんじゃないか? 例えば、そんな夜中に大和は何をしていたのか、とか」 「やめて!」  金切り声が耳を劈く。木嶋だった。彼女は慄きながらも声を絞り出す。 「全てお話ししますから……もう、何も言わないで、お願い……」  それから木嶋は目を伏せ、敬虔な信徒の如く胸の前で拳を強く握り締めると、ポツリポツリと語り始めた。あの夜、何が起こったか。その詳細を。
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