56人が本棚に入れています
本棚に追加
「成程ね」カゲリは興味なさげに頷いた。「だから都合よく祟りを利用したってワケか。マスコミにオカルト事件として騒いでもらうために」
「はい……」
項垂れる岡副。木嶋はついに泣き出した。彼女をチラリと横目に、岡副は絞り出した小さな声で問うてきた。
「彼女は……罪に問われるのでしょうか?」
「さてね。オレはそちらは専門ではないので、法の専門家にご相談ください。バカなことをと一蹴されるのがオチでしょうが」
にべもないカゲリの発言に黙り込む岡副に、僕は思わず声を掛けていた。
「岡副さん。それよりも貴方には、いの一番にやるべきことがあるでしょう」
「それは……?」
縋るような目で僕を見上げる岡副。彼も不安なのだ。自分の行動が正しかったかどうか。
僕は躊躇いつつ、二の句を続けた。
「貴方が木嶋さんを庇うために利用し、罪をなすりつけた天神様に謝罪すべきです。貴方方が司法で裁かれるかどうかは、僕の立場ではお答えできかねますが――岡副さん。貴方が致命的な間違いを犯したのは確かです。木嶋さんのためとはいえ、無関係の神様を利用したことは、絶対に間違っている。僕は、そう思います」
岡副を頭ごなしに弾劾することはできない。彼は木嶋を謂れない好奇の目から守ろうとしただけなのだから。でも、やり方を間違えた。誰か一人を守るために別の誰か――たとえ神に祀り上げられた故人であろうとも――を利用するのは、新たな不幸が増えるだけだ。負の連鎖は、早めに断ち切らなければならない。
するとカゲリがへぇ、と感心した声をあげた。
「ジミコシバクンにしては、まともなこと言うじゃん?」
「だから、僕は御子柴だって……」
言い返して、はたと気づく。今のはひょっとして、初めてカゲリに褒められた……ことになるのだろうか? 名前は間違えられたままだけれど。
「ま、赦しを得られるかどうかは、まさに神のみぞ知る――といったところだろうが」
「はい……」
再び項垂れる岡副と啜り泣く木嶋に、カゲリは冷たく吐き捨てた。こうして、事件は一抹の後味の悪さを残し、幕を降ろした。
最初のコメントを投稿しよう!