【転】御子柴悟

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「成程ね」カゲリは興味なさげに頷いた。「だから都合よく祟りを利用したってワケか。マスコミにオカルト事件として騒いでもらうために」 「はい……」  項垂れる岡副。木嶋はついに泣き出した。彼女をチラリと横目に、岡副は絞り出した小さな声で問うてきた。 「彼女は……罪に問われるのでしょうか?」 「さてね。オレはそちらは専門ではないので、法の専門家にご相談ください。バカなことをと一蹴されるのがオチでしょうが」  にべもないカゲリの発言に黙り込む岡副に、僕は思わず声を掛けていた。 「岡副さん。それよりも貴方には、いの一番にやるべきことがあるでしょう」 「それは……?」  縋るような目で僕を見上げる岡副。彼も不安なのだ。自分の行動が正しかったかどうか。  僕は躊躇いつつ、二の句を続けた。 「貴方が木嶋さんを庇うために利用し、罪をなすりつけた天神様に謝罪すべきです。貴方方が司法で裁かれるかどうかは、僕の立場ではお答えできかねますが――岡副さん。貴方が致命的な間違いを犯したのは確かです。木嶋さんのためとはいえ、無関係の神様を利用したことは、絶対に間違っている。僕は、そう思います」  岡副を頭ごなしに弾劾することはできない。彼は木嶋を謂れない好奇の目から守ろうとしただけなのだから。でも、やり方を間違えた。誰か一人を守るために別の誰か――たとえ神に祀り上げられた故人であろうとも――を利用するのは、新たな不幸が増えるだけだ。負の連鎖は、早めに断ち切らなければならない。  するとカゲリがへぇ、と感心した声をあげた。 「ジミコシバクンにしては、まともなこと言うじゃん?」 「だから、僕は御子柴だって……」  言い返して、はたと気づく。今のはひょっとして、初めてカゲリに褒められた……ことになるのだろうか? 名前は間違えられたままだけれど。 「ま、赦しを得られるかどうかは、まさに神のみぞ知る――といったところだろうが」 「はい……」  再び項垂れる岡副と啜り泣く木嶋に、カゲリは冷たく吐き捨てた。こうして、事件は一抹の後味の悪さを残し、幕を降ろした。
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