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【結】御子柴悟
あれから――
事件は事故として処理され、大和建設工業は倒産した。脱税やら何やら、数えきれない裏金で多額の負債を背負っていたのだ。大和の無理な開発は、会社の命運を賭けた大博打だったらしい。それで命を落としたのだから、大和の命運はそこまでだったのかもしれない。
取り壊された祠も、岡副が建て直し丁寧に祀り上げたと聞いた。岡副は地元に戻り、せめてもの罪滅ぼしとして、死ぬまで祠を守っていくのだと言う。
岡副は更に、木嶋の再就職先の斡旋までしたそうだ。彼女の心の傷はなかなか癒えないだろうが、新天地でどうにか立ち直れるよう願わずにはいられなかった。
ところで、僕にはどうしても理解できない謎が一つ残った。そこで、霧雨篠にその疑問をぶつけることにした。
「結局、大和社長は何故亡くなったんでしょう? 居合わせた木嶋さんによると、気がついたら大和社長にだけ雷が落ちていた、との話ですが、そんなことあり得るんですか?」
「ああ、それなんだけれど、きっと天神の祟りじゃないかな」
霧雨篠があまりにもあっけらかんと言い放つものだから、僕はたまげてしまった。
「え!? で、でも、祟りは後から意図的に発生したものじゃあ……」
霧雨篠はそんな僕を揶揄うように、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
「キミが遭遇した、祠跡に発生したモノはね。我らが特怪のポリシーをお忘れかな? 霊的アプローチから事件解決を目指すのが私達だ。死因に科学的根拠がないのなら、原因は霊的なモノだと結論づけるのが我らが特怪の役目。実に単純明快だろう?」
霊的なモノ、つまりは祟り……。いや、でも――
「今回は偶発的な祟りの上から人為的な祟りを被せてしまったがために複雑に見えた、ただそれだけのことだよ。カゲリや私が祠跡を徹底的に祓ったから、もう心配はないさ」
納得しかねる僕に無責任なことを言い放ち、霧雨篠はカラカラと笑う。なんだか狐に化かされた気分だ。不思議な彼らとも、もう二度と会うことはないだろう――そう、思っていたのだが。
× × ×
「おはようございます」
僕が久しぶりに御崎署に出勤すると、署員達はザワザワと賑わっていた。
「何かあったんですか?」
犇めく頭の隙間から同僚達の好奇の視線の先を覗き込み、僕は「げっ」と呻いた。掲示板には辞令が貼ってあった。
辞令
御子柴悟巡査
配属先:本庁特殊怪奇対策班
解任:御崎署刑事課一係
「やー、栄転やないの! おめでとさん」
ニヤニヤ笑いながら僕を小突く神崎先輩。つい先日、特怪に対する忠告をくれた人と同一人物とは思えない。
「あの、神崎先輩……」
僕の抗議を、先輩は「ドンマイ!」と爽やかに笑って受け流した。だから表情と台詞が微塵も合っていないじゃないか!
どうやら、僕の警察人生はこの先も波乱に満ちたものになりそうだ。……後で胃薬を買ってこよう。
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