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【終幕】
「ねぇ雫聞いた?」
クラスメイトの永瀬灯が食い気味に話し掛けてきた。
「今ニュースで話題の大手建設会社社長の事故死、本当の原因は天神様の祟りなんだって」
「何じゃそりゃ」
おれは思わず顔を顰めた。灯は活発で愛らしい女の子だが、オカルトマニアなところが玉に瑕だ。何故ならば、おれこと安倍雫とは全く趣味が合わないから。
「祟りなんかあるものか。そこには必ず人間の思惑が絡んでるんだよ」
我ながら冷めた物言いだと思う。だが、仕方ない。現代に続く陰陽師の総本山・安倍家の跡取りとして育てられたおれはそう教わってきたのだし、そんな生い立ちとは矛盾するがオカルトの類いが大の苦手なのだ。だから情けないことに、なるべく関わりたくないと忌避してしまう。
灯はむぅと唇を尖らせた。
「なによー、夢がないなぁ、雫は」
「放っとけよ。祟りに夢もロマンもあるモンか」
ただ、既に祟りの気配は消えているようだ。安倍の誰かが然るべき対応をしたのだろうか。後で父様に訊ねてみよう。おれが望む回答が得られるかどうかはわからないけれど。
× × ×
「どういうつもりだよ、篠」
《特殊怪奇捜査班》の倉庫にて。霞の抗議に、霧雨篠は小首を傾げた。
「どういうこと、とは?」
「何であんな役立たずを引き抜くようなマネをするんだよ。猫の手よりも使えないね」
「ああ、御子柴クンのことかい? 何度も言ってる通り、ウチは万年人手不足でね。猫の手でも借りたいところなのさ。それに彼、素直でかわいいじゃないか。あの子みたいで」
「アンタが雫のことを語るな」
霞の敵意の込められた視線をサラリと受け流し、霧雨篠は指さした。
「ほらほら、言ってる側から本人のお出ましだ。仲間なんだから、丁重に迎えてあげなさい」
霞は聞こえる大きさで舌打ちし、フードを目深に被り直した。丁度その時、倉庫の戸が勢いよく開いた。
「おはようございます! 本日付けで特殊怪奇捜査班に配属になりました、御子柴悟です。改めて、よろしくお願いします」
新品のスーツに身を包んだ正直青年がハキハキと敬礼する。表情には固さと投げやりさが見て取れる。
「やぁ、御子柴クン。待ってたよ」
「俺は待ってないけど」
「え!」
騒がしい、どこか浮世離れした日々が始まろうとしていた。
〜了〜
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