【終幕】

1/1
前へ
/135ページ
次へ

【終幕】

「ねぇ(シズク)聞いた?」  クラスメイトの永瀬(ナガセ)(アカリ)が食い気味に話し掛けてきた。 「今ニュースで話題の大手建設会社社長の事故死、本当の原因は天神様の祟りなんだって」 「何じゃそりゃ」  おれは思わず顔を顰めた。灯は活発で愛らしい女の子だが、オカルトマニアなところが玉に瑕だ。何故ならば、おれこと安倍(アベ)雫とは全く趣味が合わないから。 「祟りなんかあるものか。そこには必ず人間の思惑が絡んでるんだよ」  我ながら冷めた物言いだと思う。だが、仕方ない。現代に続く陰陽師の総本山・安倍家の跡取りとして育てられたおれはそう教わってきたのだし、そんな生い立ちとは矛盾するがオカルトの類いが大の苦手なのだ。だから情けないことに、なるべく関わりたくないと忌避してしまう。  灯はむぅと唇を尖らせた。 「なによー、夢がないなぁ、雫は」 「放っとけよ。祟りに夢もロマンもあるモンか」  ただ、既に祟りの気配は消えているようだ。安倍(ウチ)の誰かが然るべき対応をしたのだろうか。後で父様に訊ねてみよう。おれが望む回答が得られるかどうかはわからないけれど。  × × × 「どういうつもりだよ、篠」 《特殊怪奇捜査班》の倉庫(オフィス)にて。霞の抗議に、霧雨篠は小首を傾げた。 「どういうこと、とは?」 「何であんな役立たずを引き抜くようなマネをするんだよ。猫の手よりも使えないね」 「ああ、御子柴クンのことかい? 何度も言ってる通り、ウチは万年人手不足でね。猫の手でも借りたいところなのさ。それに彼、素直でかわいいじゃないか。みたいで」 「アンタが雫のことを語るな」  霞の敵意の込められた視線をサラリと受け流し、霧雨篠は指さした。 「ほらほら、言ってる側から本人のお出ましだ。仲間なんだから、丁重に迎えてあげなさい」  霞は聞こえる大きさで舌打ちし、フードを目深に被り直した。丁度その時、倉庫の戸が勢いよく開いた。 「おはようございます! 本日付けで特殊怪奇捜査班に配属になりました、御子柴悟です。改めて、よろしくお願いします」  新品のスーツに身を包んだ正直青年がハキハキと敬礼する。表情には固さと投げやりさが見て取れる。 「やぁ、御子柴クン。待ってたよ」 「俺は待ってないけど」 「え!」  騒がしい、どこか浮世離れした日々が始まろうとしていた。 〜了〜
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加