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「うはっ、すっげえアホ面晒してんなぁ!? コイツ誰だよ、篠!」
「うわぁっ!?」
突如として影が現れた。驚いて飛び退く僕とは反対に、霧雨篠はフレンドリーに影に話し掛けた。
「おお、来たかカゲリ」
いつの間に現れたのか、黒のフード付きマントを纏い顔を半分隠した、いかにも怪しげな人物が僕の前に立っていたではないか! 外見からは計り知れないが、声は若い。ひょっとすると、まだ僕よりも年若い少年だったりするのか? それにしても、気配すら感じなかったぞ……!
「カゲリ、彼は我が特怪の期待の新人だ。仲良くするように」
「へーえ、新人? コイツが?」ジロジロと好奇の目で見られる。やがてカゲリと呼ばれた青年はプッと吹き出した。吹き出した……?「鈍臭そう」
「は――」
絶句する僕に向かって、カゲリと呼ばれた青年は次々に悪口の矢を降らせてくる。
「幸薄そう。熱血と言えば聞こえはいいが、気持ちだけ先走って空回りするタイプ?」
「な、な、な……!」
言いたい放題にも程がある! この男を止められそうな人物は霧雨篠だけだが、彼女はやり込められる僕を愉快そうに眺めていた。くそっ、ここにはドSしかいないのか?
ドS女は手を叩いて僕を促す。
「ほらほら、新人クン。自己紹介は?」
「み、御子柴悟……です。階級は巡査。御崎署から、と、特殊怪奇捜査班に派遣されました。よ、よろしくお願いします……」
「ジミコシバ?」
「ミ・コ・シ・バです!」
空耳にも程がある。どんな耳してるんだ!
「だって地味じゃん。要するに、体よく特怪に追っ払われた下っ端の下っ端ってことかよ。カワイソ〜」
可哀想、なんて言いながらフードから覗く口元がニヤついてるぞ! チェシャ猫かコイツは!
「紹介しよう。彼が我らが特怪の協力者、陰陽師のカゲリだ。こんな見た目で怪しさ満点だが、とても頼りになる子だよ。ハイ、握手握手」
握手を促してくる霧雨篠。しかし、カゲリは両手を顔の横で広げ、べっと舌を出した。む、ムカつく……!
霧雨篠はやれやれ、と溜め息を一つ落とすと、ニコリと微笑んだ。悪魔の微笑みだ、と僕は察した。
「せっかくだし、親睦を深めるためにも二人で仲良く事情聴取に行ってきたまえ」
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