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ほんのり甘いミルクの匂い。
プラスティックの動物たちが踊る、ベビーベッドに向かって鳴り響くオルゴールメリー。
柵につかまって背伸びをして覗くと、キラキラした目の赤ちゃんがこちらを見つめている。
あたし、お姉ちゃんになったんだ。これは、あたしの妹なんだ。
ずっとワクワクして待っていた楽しみが目の前にある、そんな胸が弾む幼い私の心。
それが、私の十六年の人生の中で一番古い記憶だった。
夜中に妹がギャンギャン泣いて、それに腹を立てた両親が怒鳴り合っている。私はその声で目が覚めた。
薄暗い部屋で辺りを見回すと、いつもみんなで寝ている部屋の両親の布団は空っぽで、妹もベビーベッドの中にはいなかった。
泣き続ける妹の声も両親の怒鳴り声も続くなか、襖から漏れている明かりの方へ寝ぼけ眼で歩いて行った。
そして、襖をそっと開けて見たその先には、「黙らせろ!」と怒鳴り散らす父親の足元に、泣き止まない妹を叩きつける鬼の形相の母親がいた。
次の瞬間、気持ち悪い静寂が家のなかを支配した。
父は目を見開いて足下を見つめ、母は父を睨みながらハアハアと肩で息をして、まだ怒りが続いているのが読み取れる。
そして、妹はもう何も発することなくグッタリしてしまった。
そのとき、フワフワと柔らかかった幼い私の心の中がギュッと凝縮して固まり、温かかった胸の奥が石のように冷たくなったのを感じた。
それが、私の人生で二番目に古い記憶。
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