三・事件

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 シーンと静まり返った食堂の中では、一斉に彼に注目が集まっていた。 「本当だよ。規則違反ではあるけど、このC館のシアタールームで十二時近くまでカラオケしてた。それは警察にも伝えたし、あそこにはビデオカメラだって設置されているだろ? だから、妙な言いがかりはやめろよ」  毅然とした態度に圧倒されて、秋山先輩は一歩うしろへ下がったけれど、悔しそうに唇を噛みしめながら彼を睨みつけた。 「なんなの? 小田君、彼氏気取り? 彼氏がいるこの子にとってはただの遊びなのに。バッカじゃないの」  それから、細い目をより鋭くして、まるで般若のような表情で澪を睨みつけた。 「花音が自殺したなら、あんたが追いやったんじゃないの? あんたがその気もないのにつまみ食いのようにあの子の彼氏にちょっかい出して。その結果、仲が良かったふたりは別れさせられて。あんたのやっていることは、人の命を奪うほど、人道に反した行為なんだから、自覚しなさいよ‼」  そう言い捨てると、秋山先輩はそのまま食堂から飛び出して行ってしまった。  さすがにその言葉は堪えたのか、澪はさっきまで淡々と箸を動かしていたのがパッタリと止まってしまっていた。  隣に座っている神崎さんも困ったように小声でなにかを話しかけているけれど、それも恐らく澪にとって不愉快な言葉だったようで、厳しい表情で神崎さんを見ていた。  もう一波乱来なければいいけれど…………。  私にはそんな嫌な予感がしていた。
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