四・違和感

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「足長おじさんの所へ行っていました」  昼間、西村先輩の死亡推定時刻にどこにいたか、という部屋に来た刑事さんたちの質問に対して、澪はそう答えていた。 「足長おじさん…………というと?」  どんな極悪犯でも腕力では勝てるだろうと思うほど、見るからに強そうな大柄の中年刑事さんが眉をひそめて聞き返した。 「そのまんまです。うちは貧乏なので、ここの学費や寮費を払ってくれる、親切な金持ちのおじさんです。お世話になっているので、呼ばれたらいつでも飛んで行くことにしているんです」  淡々とそう言いながら、澪はその人のものらしい名刺を刑事さんに手渡した。 「ああ、そう」  困惑しながらその名刺を受け取る大柄な中年刑事さんとは対照的に、細身の若い刑事さんは「それは何時くらいのこと?」と穏やかな優しい口調で聞いた。 「十一時前に寮の門を出ました。その前は、友人とC館でカラオケをしていました」 「カラオケは何時くらいから?」 「九時くらいですね」 「つまり、九時ごろから十一時前ごろまではC館でカラオケをしていて、そのあとに寮を出て、足長おじさんの所へ行ったんだね?」 「はい」 「女子寮には一度も戻っていない?」 「戻っていないです」  それらは防犯カメラが証明できることだったから、恐らく裏が取れたのだろう。  小田先輩は庇うためなのか勘違いなのか、時間を十二時前と言っていたけれど、私はその〝足長おじさん〟らしき人が深夜二時過ぎに送ってきているのを見ている。だから、澪の言っていることは本当だろうと思えていた。
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