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「よろしく、佐山さん。確か、B組だよね? 私はF組なの」
「知ってる。ていうか、一年生で望月さんのことを知らない人はいないと思う」
そう言いながらも、彼女の方が私を知っていることが意外だった。私は彼女とは違って特に目立つわけでもないし、部活にも所属していなかった。
「へえ、そうなの?」
澪は意味深に微笑むと、流し目で私の方を見ながら床に座ると、持ってきた大きなトランクを開いて荷物を広げた。
「どうせ、ろくでもない噂が立っているんでしょう?」
「えっ?」
「クローゼット、どっちを使っていいの?」
淡々とした口調で事務的に聞いてきたから、私は無言のまま空いているクローゼットを指差した。
少しの間、お互いに何も話さずに気まずい雰囲気のまま、澪は持ってきた洋服をクローゼットへ片付け、私はそれを見つめていた。
「…………望月さんがどうして私のことを認識しているのかは分からないけど、私は噂話とかそういうのから、恐らく一番遠いところにいると思う」
「どういう意味?」
私の言葉に反応して、澪が手を止めてこちらを見た。
「だから、噂話とか嫌いだから加わらないんだよね。ま、女子の間では冷めているとか思われているんだろうけど、別に気にしない」
友達はいるけれど、なんとなく一緒にいて楽な子たちは似たような考えを持つ子なのかもしれない。少なくとも、この澪は私の目からはいかにも女子という雰囲気に見えているから、それほど気が合うとは思えないけれど。
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