一・ルームメイト

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 澪の言う〝ろくでもない噂〟というものは、夕食の時に一緒に食堂へ行って分かったような気がした。といっても、別に噂を耳にしたわけではない。澪を見ていて分かったのだ。  食堂は同じ敷地内にある男子寮と女子寮の間にある、男女共有のC館と呼ばれる建物にあった。  C館には食堂のほかに、映画を見たりカラオケをしたり出来るシアタールームに寮内会議に使われるミーティングルーム、PCやボードゲームや本やマンガ等が置いてある談話室などがある。  そこは全て男女共有部分だから、寮内で仲良くなって付き合う人たちも多いらしい。ただし、間違いが起こらないようC館の各部屋や廊下には防犯カメラが付けられている。 「えー、そうなんだ。残念」  トレーをもって夕食を受け取る列に並びながら、そんな話を澪にすると、あからさまにガッカリした表情で肩をすくめた。 「残念って。石坂君は寮生じゃないでしょ?」 「ま、和也はね」  フフフッと小悪魔的に微笑むと、澪は誰かを探すような視線で食堂を見回している。そんな表情は同性の私から見てもビックリするほどかわいいし、澪自身もそんな自分がどうしたら魅力的に見えるか分かっているように思えた。 「だって、せっかく男女共学で、大人の目がない寮の中にいるんだからね。彼氏とは他に、ちょっと仲がいい男子がいてもいいじゃない?」  澪の言う〝ちょっと仲がいい〟がどんなラインなのか私には分からなかったけれど、それを確かめる気持ちにもなれなかった。  つまりは、彼氏だけじゃ飽き足らないという意味だろう、と簡単に想像ができたから。  
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