一・ルームメイト

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 そんな澪を見ていると、思い出す光景があった。  あれは、五歳か六歳くらいの頃だろうか?  当時、私は児童養護施設で暮らしていた。  たぶん、まだ小学校へあがっていない子の部屋で、私を含めて男女五、六人の子どもが担当のお姉さんとともに暮らしていた。  担当のお姉さんは若くて明るいかわいい人で、そこで暮らす私たちはみんな彼女が大好きだった。  だけど、私たちが寝たら帰ってしまい、夜は見回りの職員さんが日替わり交代で来ていたようだった。  夜中に目覚めてもお姉さんはいない。  それを知っているみんなは、なかなか寝なかったり寝るまでお姉さんをどうにか独り占めしようとしたり、毎晩子ども同士の駆け引きが見え隠れしていた。  私もどうにかお姉さんに自分の近くに来てもらおうと、呼んでみたり泣いてみたり、毎晩気を引こうと必死だった。  それでも当時の私は夜中に起きることはなく、夜寝るまではお姉さんが部屋にいて、朝になるとお姉さんの声で起こされる。だから、いつもその部屋にはお姉さんがいて当たり前だった。  だけど、お姉さんの部屋は同じ敷地内の職員寮にあることは知っていたから、夜にはお姉さんはそこへ帰っているのは知っていた。  知っている、と頭では思っていた。  だけど、あるとき夜中に目覚めて、部屋の外から帰っているはずのお姉さんの声がしたから、布団の中からお姉さんの名前を呼んでみた。  けれどお姉さんは現れず、見回りのおばさんがやってきた。 「お姉さんの声がしたの。お姉さんはどこ?」 「ここの部屋のお姉さんはもう帰る時間を過ぎているでしょう? だから、おばさんが来たのよ」  その言葉は、高校生になった今では意味が分かるし理解もできる。  だけど、時間で区切られて慕っている人に会えないだなんて、幼かった私の心にはショックでしかなかった。
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