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第一話
キンッ。
地面に突き刺したスコップが、地中の石に当たったのか嫌な金属音をあげ、僕の手に鈍い痛みを伝えた。
“この場所は失敗だったかな…”
暗闇の中、さっきから一生懸命に穴を掘っているけど、石に当たってばかりで、なかなか穴は広がらない。
“このスーツケースが埋められる大きさの穴を急いで掘らなきゃいけないのに…”
労力を費やす割には一向に進展しないこの作業に、僕は焦り始めていた。
鬱蒼と木が茂る暗闇の中。
車がやっと一台通れるほどの道からさらに20メートルほど分け入った先の大きな木の下。
“ここなら大丈夫かな?”
そう思った僕は、その大きな木の下で、少し前から一心不乱に穴を掘っていたのだけれど、流石に時間がかかりすぎたかもしれない。
幸いこの時間、20メートル向こうの道を通る車もバイクも無いけど、仮にもし誰かが通りがかったりすれば、こんな音を立てていたら、見つかってしまいかねない。
“早く埋めてしまわないと…”
懐中電灯の明かりですら見つかりそうなので、スマホのライトだけしか点けてないのだけど、この手元の暗さも、効率を悪くしている一因だと思う。
僕は、血豆ができた手のひらをみつめながら、自分の計画性のなさを呪った。
そして、ぼくに無計画な行動を強いることになった、彼女を呪った。
そう、彼女さえ…。
理沙。
そうだ理沙。君が悪いんだよ。
君があんなことさえ口にしなけりゃ…。
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