便せん

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 手紙は時候の挨拶から始まっていた。  それから僕の体調を気遣ってくれる。  ここを読んだだけでも、彼女が手紙に込めてくれた深い愛情が感じられる。  梅の花が咲いたこと、ひな祭りにちらし寿司とシジミ汁を作ったこと、気温差があるから着る物に迷うこと、一緒にお花見したいこと、そんな事がつらつらと、コバルトブルーのペンで書かれていた。何か所か書き損じたらしく、塗りつぶしてあるのはご愛敬だね。  豊かな表現。まるで目の前に情景が浮かび上がってくるような、そんな手紙だった。  深呼吸すると春の香りすら感じられそうだった。  そしてそこかしこに見られる彼女からの想い。  妻から貰う手紙は、いつだって味わい深い。  もちろん、この手紙をそのまま食べても充分に美味いだろう。  いや、実際に美味い。単身赴任を始めたばかりの頃、彼女恋しさ幾度となく手紙を貪り食べた。  噛みしめるほどに、彼女の心遣いや心配と言った思いを感じた。  三年たつと、ある程度心には落ち着きが出て来たものの、やはりこの手紙が特別であることに変わりはない。せっかく春の爽やかな手紙をくれたのだから、爽やかな一品に仕上げたい。
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