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赤、青、緑…。
手紙の入った封筒の周りを包み込むように様々な色が漂っている。
それが手紙を書いた人の想いだと知ったのは小さい頃だ。
色が見える対象は手書きで書かれた手紙に限られているけれど、例えば赤色に包まれていたら、手紙を書いた人は強い愛情や怒りといった感情を込めている、青色に包まれていたら、心配や悲しみといった感情を込めている、といった感じだ。
もちろん、書いた人の感情がそのまま反映されているので、手紙を包む色の全てが相手にそのまま当てはまるものではないし、手紙を書いている途中で他の感情が反映されて別の色が混じることもあるため、参考程度にしかならない。それでも文章の流れやベースの感情色から、誰に向けてどんな感情を込めてかいたかを推察することはできる。
そんな色とりどりの手紙を見ているのは、キャンパスを彩るためにパレットの上に置かれた水彩絵の具を連想させるようで、僕は好きだった。
たとえ、それが善意であれ、悪意であれ、他人がどんなことを考えているかわからないこの冷たい世界で、自分以外の誰かが感情を持って生きている温かさを感じられることは、僕にとって素晴らしいことだと思えた。
そんなことを考えるような性格だったからか、僕は高校を卒業すると同時に郵便局に就職した。
少しでも、人の想いに触れていたかったからだ。
今になって思えば、それは僕にとっての現実逃避だったのかもしれない。
だってその当時の僕は、世界の冷たさに対する恐怖のあまりに、将来のことなど考えてもいなかったのだから。
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