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冬
意識が沈み込みそうな雪の日だった。
俺の好きな人が声を失ったのは。
〈雪・俺〉
この世界には、男女の性の他に3つの性別が存在する。
一つ目はα。リーダー性が高く、統率力に長けている。それに加えて、生まれたときから容姿端麗であったり、知識に富んでいる場合が多い。人口の約10%とされる、希少な「優等種」。
次にβ。人口の約70%とされ、容姿や能力は共に平均的。βはβ同士でしか婚約できないとされている。
最後に、Ω。人口の約20%のみと、少ない。男女問わずに妊娠が可能という事もあり、優等種ともされるが、逆にΩなら避けられないひと月に一度のヒート(発情期)のせいで劣等種ともされている。
ヒート時のΩの妊娠率は約85%以上とされており、政府のΩに対する法律はかなり手厚い物となっている。
また、Ωはαとしか、番と言われる…所謂、夫婦関係になることができない。
政府は、小学4年生時に第二性の検査をすることを義務付けしている。
10歳の冬。第二性の検査を学校でしてきた帰りだった。
結果が書かれてる封筒を大切に抱える。結果は家族と見る。先生が言っていた約束だ。
ギュムゥギュムゥと、足を踏み出す度に雪から重い音がなる。
「ね、清春、雪っていつとけるの?」
俺の隣で、跳ねるように歩いてるユキが笑いながら話し掛けてきた。
「前を向いて歩きな、ころぶよ。」
「う、...はぁ~い」
ユキとは義兄弟だった。ユキが兄。俺は父方の息子、ユキは母方の息子だ。
俺は、...この頃には既にユキが好きだった。
「で?どのぐらいで溶けるの?」
ユキの方がひとつ年上なのに、この様。俺より子供みたいだった。
「毎年ちがうからね。どうなんだろ...」
「大体でいいよ!ね~」
「ん、毎年3月にはちらほら…溶けてた気するよ。」
ユキが、ピタリとその場にたちどまり俺の方を向いて満面の笑みを浮かべた。
「そっか!!じゃあ、あと少しの辛抱だね!!雪が溶けたらもっといっぱい遊ぼうね!!」
俺の足元の雪がギュム、と鳴った。
「俺らのどちらかがΩだだとしたら、ヒート?とかでもっと忙しくなるから遊べなくなるよ。」
俺が意地悪で言うと、ユキは
「そんなこと無いよ!!俺ら二人ともβに決まってる」とこれまた、意地悪な笑いかたをした。
「それはそれで悲しい気も、」
と呟いた俺の声は、深い雪に吸い込まれて消えた。
俺はαだった。
ユキは、Ωだった。
〈雪・僕〉
僕がオメガと診断されてから、4回目の冬。
「ただいま~...」
帰り道に、ヒートの発作が来たときは心臓が止まるかと思った。
どうにか家までもったのは、中々の奇跡だと思う。
熱で火照る体を無理矢理動かして、自室へと続く階段を上る。
流石に、今の状態で階段を上るのはキツかった。
(母さんにヒート始まったって送っとかなきゃな。清春と母さんはαだから...)
そんなことを思うと、やはり不思議に思ってしまう。βの父親、それと血がつながっているのにαの清春。αの母親、と、血がつなが
っているのにΩの僕。
(いくら再婚だとしても、歪だ…
まるで初めから繋がることを拒まれているような…。)
………そもそもαとβが結婚なんてのが珍しいんだ…。と思う。母さんは恋愛結婚だと言っていたけど…。
階段を踏みしめるようにして、上がっていく。ギィ、ギィという音が響いた。
階段を登り切った突き当たりには、僕の部屋がある。
到着~と木目の扉を押し開いて中に飛び込むと、...
部屋には父さんがいた。僕の服が入っているタンスに身を預けて、もともと部屋にあったぬいぐるみ類を顔に押し当てていた。
「父さん?なにしてるの?…ごめんね、僕ヒートに…」
不意に、天井と父さんの顔で視界が埋まる。背中と頭に鈍痛が滲む。
「父さん...?なに?」
僕の頭の中が危険信号を発していた。逃げろと。
父さんはβだ。だから、僕の匂いに当てられているわけでも無いだろう。
なのに...。
「ッ...!!父さん...!ね、やめて!!やだ!!!」
父さんの体重がかけられて押しつぶされそうな肺から、声を絞り出した。
それでも、父さんは退くどころか僕の言葉に反応すらしてくれない。
体が重くなってきた。どうやら本格的にヒートに入ったみたいだ。
…
部屋には、僕の声とベッドの軋む音だけが延々と鳴っていた。
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