118人が本棚に入れています
本棚に追加
おれの可愛い若旦那・・・②
「ちょっ……だ、だめだ。こっ、こら……」
「早く、どちらか言って下さい。好き?それとも嫌い?言ってくれないと、これからもっと大変なことになる」
仙助は片手で何も着けていない信太郎の腰を抱えると、自身の緩く滾った下肢を擦りつけ、軽く揺すった。
血相を変えた信太郎は、仙助を懸命に押し返す。
しかし覆いかぶさった仙助の身体は、堅牢な一枚岩の様に鉄壁で、非力な信太郎の力では微動だにしない。
「わ~~~~分かった!分かった!言う!言う!…好き好き!お前のこういう所も、全部好きっ!」
信太郎が言い切った後、仙助の腕の中からハッと息を飲む気配をはっきり感じた。
腕を緩めた仙助が、そろそろと下を覗きこむ。
すると、面白いくらい茹で蛸に仕上がった信太郎が視界に飛び込んできた。
黒目勝ちの眼を潤ませ、赤い顔で視線を彷徨わせる信太郎。
そのさまは、最早三十路男とは到底思えない、とびきりの可愛さだった。
―なんだよ、これ。こんなのとんだ見込み違いだ
その愛らしいさまに、仙助の顔もじわじわ熱くなるのが分かる。
何時もなら、こんな据え膳逃すはずの無い仙助だ。
だが今は、心が逸って逆に手が出せないとはどういう事だ。
仙助は慌てて信太郎を懐深く抱えると、自身の赤い顔を悟られない様に、互いの頬を重ね合わせた。
腕の中で、小鳥のように震えていた信太郎の動きが止まる。
仙助は信太郎を落ち着かせるように、繰り返し背中をさすってやると、信太郎はやがて深い吐息を一つ吐いた。
「……若旦那は何か勘違いしているようだが、俺とおきぬちゃんは何でもないよ。付け文の件は元々断るつもりだったンだ。…だからさっき若旦那にした事は、別に怒っていたからじゃない。俺がしたかったから、した」
事の真相を告げた仙助が、恐る恐る信太郎から顔を離す。
案の定、鳩が豆鉄砲を食ったような信太郎と目が合った。
こんなすっとぼけた顔も可愛く感じるなんて、自分は一体どうしてしまったのだろう。
信太郎の周りを取り巻く景色が、妙に眩しく感じるのは何なのか。
仙助はこれからもこの男に翻弄されそうな予感をしつつ、それも悪くないと思っている自分に笑った。
「……どうやら俺も、若旦那に惚れちまったみたいだ。アンタずるいよ。可愛すぎるよ」
仙助が信太郎の口を優しく吸うと、信太郎は目を見開いたまま赤い唇を慄かせた。
「……こんな俺は、嫌い?」
仙助が上目遣いでそう問うと、初めて信太郎は細い腕を仙助の背に回し、小さい声で「好き」と答えた。
最初のコメントを投稿しよう!