おれの可愛い若旦那・・・②

1/1
前へ
/11ページ
次へ

おれの可愛い若旦那・・・②

「ちょっ……だ、だめだ。こっ、こら……」 「早く、どちらか言って下さい。好き?それとも嫌い?言ってくれないと、これからもっと大変なことになる」   仙助は片手で何も着けていない信太郎の腰を抱えると、自身の(ゆる)(たぎ)った下肢を擦りつけ、軽く揺すった。   血相を変えた信太郎は、仙助を懸命に押し返す。  しかし覆いかぶさった仙助の身体は、堅牢(けんろう)な一枚岩の様に鉄壁で、非力な信太郎の力では微動だにしない。 「わ~~~~分かった!分かった!言う!言う!…好き好き!お前のこういう所()、全部好きっ!」   信太郎が言い切った後、仙助の腕の中からハッと息を飲む気配をはっきり感じた。  腕を緩めた仙助が、そろそろと下を覗きこむ。  すると、面白いくらい茹で蛸に仕上がった信太郎が視界に飛び込んできた。   黒目勝ちの眼を潤ませ、赤い顔で視線を彷徨わせる信太郎。  そのさまは、最早(もはや)三十路男とは到底思えない、とびきりの可愛さだった。 ―なんだよ、これ。こんなのとんだ見込み違いだ   その愛らしいさまに、仙助の顔もじわじわ熱くなるのが分かる。   何時(いつ)もなら、こんな据え(ぜん)(のが)すはずの無い仙助だ。   だが今は、心が(はや)って逆に手が出せないとはどういう事だ。  仙助は慌てて信太郎を懐深く抱えると、自身の赤い顔を悟られない様に、互いの頬を重ね合わせた。  腕の中で、小鳥のように震えていた信太郎の動きが止まる。  仙助は信太郎を落ち着かせるように、繰り返し背中をさすってやると、信太郎はやがて深い吐息を一つ吐いた。 「……若旦那は何か勘違いしているようだが、俺とおきぬちゃんは何でもないよ。付け文の件は元々断るつもりだったンだ。…だからさっき若旦那にした事は、別に怒っていたからじゃない。俺がしたかったから、した」  事の真相を告げた仙助が、恐る恐る信太郎から顔を離す。  案の定、鳩が豆鉄砲を食ったような信太郎と目が合った。   こんなすっとぼけた顔も可愛く感じるなんて、自分は一体どうしてしまったのだろう。   信太郎の周りを取り巻く景色が、妙に眩しく感じるのは何なのか。   仙助はこれからもこの男に翻弄されそうな予感をしつつ、それも悪くないと思っている自分に笑った。 「……どうやら俺も、若旦那に惚れちまったみたいだ。アンタずるいよ。可愛すぎるよ」  仙助が信太郎の口を優しく吸うと、信太郎は目を見開いたまま赤い唇を慄かせた。 「……こんな俺は、嫌い?」   仙助が上目遣いでそう問うと、初めて信太郎は細い腕を仙助の背に回し、小さい声で「好き」と答えた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加