0人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ハァ」
勢いには、やはり波がある。朝起きた時、漠然とした自信に溢れている時もある。逆に、透き通るほどいい天気なのに全く気分が晴れない時も。今日はダメな日だ。
仕事から帰った彼女が、俺の後ろで化粧を直している。友人に食事へ誘われ、今から行ってくるらしい。
そんな彼女を見るだけで、惨めな気分だ。あんなに楽しそうなのに、俺は……。
今日は、ダメな日だ。
「ねぇ、今度気分転換に買い物行かない?」
「何買うの?」
「友達が素敵なジュエリーショップを見つけたんだって。気になってたから行ってみたいの」
「ジュエリーショップ……」
いかにも高価な物がありそうな名前。
今無職の俺は、大学の頃に必死で貯めた上京資金を切り崩しながら彼女と生活している。彼女と半分ずつ出しているとはいえ、当然ながら俺の金は減るばかり。働いている彼女にはもちろん、収入がある。
「俺はいいよ。好きなもの買ってきたら?」
「……何で?」
「わかるだろ。今の俺じゃ、何も買ってやれないんだ」
「買って欲しいなんて、一言も言ってないでしょ」
何でわかってくれないんだ。今の俺がそんな所に行ったって、惨めな気分が深くなるだけなんだよ。
これ以上、俺の無力さを思い知らせないでくれ。
最初のコメントを投稿しよう!