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彼の作品が小さな賞を取って、半年が経過した。
相変わらずのんびりした生活を送っているけれど、前よりも仕事を頑張る態度が真剣になったように見える。
それ以外にも、いい変化はいくつか表れた。
「あっ、今日の八宝菜すごく美味しい!」
「本当に? 良かった」
「やっぱり味付けは俺じゃ無理だな」
「野菜の切り方が良かったんじゃない? 片付けもやってくれるし、ありがとうね」
「切るくらいは俺でもできるからさ」
朝と夜の食事は、必ず食卓で一緒に。
お互いの左手には買ったばかりの指輪がはめられていて、部屋中が幸せに溢れている気がする。この部屋だけじゃなくて、目に見える全てが幸せな気がした。
彼の顔色が健康的なのも、毎日野菜を中心にしたバランス良い食事を心掛けているおかげかもしれない。
私の今までの努力も無駄じゃない、と安心できた。変化が目に見えて、彼も感謝を言葉にしてくれて、倍以上に嬉しい。
「……こういうのを、幸せって言うのかな」
「なんだよ、急に」
「あの時、電話に出るのが少し怖かったの。前と同じ毎日が、また来るのかなって。でも、そんなことなかった」
「見たことのない未来に連れて行ってあげられたと思うんだけど、どう?」
「連れて行くより、攫われたの方が近い気がするけどね」
「いいな、それ。これからも、身も心も攫って未来に飛んでいくよ」
「ふふ。次に使うフレーズ?」
「そうしようかな」
こんな未来なら、攫われて良かった。
もっと前から、付き合うことになったあの時から私の気持ちは既に、彼に攫われていたんだと思う。
ありがとう。本当に、ありがとう。
貴方を好きになって良かった。
end
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