『手紙』

第一章・―息子―

　そんな息子を見ながら呆然と立ち尽くす私に、隣に立つ看守が遠慮勝ちながらも声をかけてきたので、振り向くと、おもむろに手紙を差し出された。
　差出人の名前は息子で、私宛てのその手紙を差し出しながら、看守が淡々とした口調で遺書のようだと告げる。
　真っ白い封筒には名前以外記されておらず、震える手で封を開ける。
　中からは矢張り数枚の白い便箋が出て、そこにびっしりと、恐らくではあるが、息子が書いであろう文字が並んでいた。
　違和感がある。今までまじまじと、息子の文字を見た事がなかったように思う。
　だから、これは推測でしかなくて、多分、息子が書いたのだろうという事しか言えないのだ。
　本当に……、私は息子に対して、一体何をしてやれていたのだろう。
　今更ながらにそんな想いがふつふつと沸き上がってくるのだが、冷たくなった本人を前にして、そんな事を考えても、最早無駄のように思える。
　息子の死を哀しむより前にそんな事を考えるとは、何と無情な親だろうと、だから嫌われたのだと歯噛みする。
　そうしている内にもら改めて心に冷めた風が吹き込むようで、頭(かぶり)を振ると手紙を読んだ。