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「カツ、、、丼、ですか?」
「ああ、急いでくれ」
柏木の口から出た言葉を そのまま受け取ったのは水無月だけで、残りの者には『カツ丼』というワードが何かの隠語ではないかと思えたほど場違いな台詞だった。
しかし、次の瞬間には
「キセくん、届いたら声かけて」
といってダイニングの床にコートを着たまま、靴をも履いたままで横になり、寝てしまった。
怒りに狂うでもなく、焦燥に頭を抱えるでもない柏木の様子に一同は互いに胸の内を問い合い、顔を見合わせる。
───
それから数時間、
相武からの連絡は途絶えたものの、柏木はそれに対しても承知しているかのように落ち着き払い、自らは食べて寝てトイレに行く以外の事をしなかった。
一方、食べも眠れもしない野々山は次第に柏木への不信が募り、横に座って目を閉じる水無月に消化できない思いを吐いた。
「水無月さん、私はこの状況で とても食べ物など喉を通りません。
汰士さんのことを思えば頭が冴え、眠りたいとも思わない、、、今でさえ許されるなら少しでも情報を教えて頂き、汰士さんを見つける為に ここを飛び出したいと思うほどです。とてもあんな風には、、、。
一体、柏木様は何を考えているのでしょう」
『ああ』と呟き、しばらくは黙していた水無月は眼を閉じたまま、
「あいつは今、生きるに必要なこと以外するつもりはないんだろうな。
服も靴も脱がず、汰士の居場所がわかれば、万全の状態で飛び出せるよう体力を最大に蓄えて待っている。
汰士の置かれている状況がわからないまま、あいつがのうのうと食って寝ていられると思うか?
食欲どころか味覚も深い眠りもないだろうよ。
それでもそうしているんだ、汰士を助ける為に」
言って、大きな空の丼を抱えたままダイニングテーブルに突っ伏して寝ているキセに上着を掛けてやり、再びソファに戻った。
「ですが、、、」
「俺は連日の移動に疲れ、頭が回ってない。
が、眠れもせず脳神経は興奮したまま。
それはお前も同じだろ。
そこへもって闇雲に動き回れば体力を消耗させる上、感覚を鈍らせ、それらが些細な焦りを生んで判断を誤る。
いざというときに、わずかにも冷静さを失えば救えない命があるってこと、要人の警護をしてたお前ならわかるはずだ」
それでも不安に駆られる野々山は納得がいかず、
「それはわかりますが、もし。
こうしてる間にもしも、、、もしもですが、汰士さんに万一のことがあ、、、」
「野々山」
水無月は声を最大に重くして野々山の言葉を遮った。
「『汰士が殺されたら』って思ってるのか?
お前には理解できないだろうが、
あいつに、柏木にその思考はない。
それでも汰士の死を想定したいなら教えてやる。
その時は柏木もこの世にいない。
今のあいつが生きる事に執着してる理由はな、
『汰士を救い出す』
、、、それだけだ」
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